人権擁護法案と表現の自由(2002年5月9日)
1 〈組織〉 法務省の外局として人権機関をつくる。事務局は、中央では法務省人権擁護局を改組 (最終答申)、地方では、地方法務局に事務委任して行う (15条、16条)。政府からの独立性は著しく弱い。 2 〈調査〉 調査名目により、人権機関が広く、取材、報道に介入する危険がある。 調査の発動用件として人権侵害とは何かが問題となるがかんじんの人権侵害の定義が著しくあいまいである 「この法律において人権侵害とは、不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為をいう。」(2条) 人権機関は、人権侵害の予防、救済のため 「必要があると認めるときは、必要な調査」 を行うことができる(39条)とされる。 人権侵害を受け、又はおそれがあるときは、人権委員会は必要な調査をし、適当な措置を講じなければならない。(38条1項) 「被害の救済」、予防を図るため必要があると認めるときは、職権で(申し立てがなくても)必要な調査をし、適当な措置を高ずることができる。(38条3項) 特別調査でなく一般調査の対象とされる点がみのがされてはならない。 〈調査の主体〉 独立性のない人権機関が限定要件も全くなく、いつでも調査を行うことができる。かかる調査が取材から報道後に至るまで発動される。この調査が、中央事務局と地方法務局、人権擁護委員によって行われるのである。取材と報道に多大な萎縮効果がおこることが懸念される。 人権委員、人権擁護委員、地方法務局職員に調査権限があることとされる。(39条2項) 人権擁護委員は全国15000名、60万件の相談をうけ、17000件の人権侵害を扱うという。 調査嘱託 (40条)〉により、警察ほかの捜査機関、公安調査庁職員などの組織が関与する可能性も否定できない。 帰化の身元調査では、警察が動いている実例がある。 これらの組織がメディアに対して人権機関の調査権を嘱託行使することの影響は、はかり知れない。 3 〈事前規制〉 法案による人権機関は、事前規制により表現の自由、報道の自由、知る権利を危険にさらす。 メデイアによる人権侵害のうち特別人権侵害にあたるものは、事前規制、調停、仲裁、訴訟援助、の措置をとる。 人権機関は、特別人権侵害 (メディアによる人権侵害を含む) による被害の救済、予防を図るため、当該行為の停止、くりかえしの禁止を勧告することができる。(60条) この規定により、出版、報道の事前差し止め、42条1項四号イ.ロ.に列挙する、名誉、プライバシー侵害、つきまとい、立ちふさがり、見張り、押しかけ、電話・FAXをかける等の取材行為について停止勧告を行うおそれがある。 国からの独立性がない人権機関が主体となる上、その要件にも何ら厳密な限定がないから、出版、報道が一般に流通する前に、事前規制を行う危険があり、憲法の禁止する検閲にあたる事態も現出する可能性がある。 4 差別言動へは特別強制調査、差止め訴訟 停止勧告、(64条) 差止め裁判 (65条) 5 〈救済〉 法案が規定する人権侵害救済の措置による取材、報道への介入の危険がある。 人権機関は、救済として説示、啓発、指導、調整、通告、告発、調停、訴訟援助等の措置をとることができる。(41条、45条、47条) 報道機関に対して、あたかも監督者か指導者のようにふるまう権限を人権機関に与えることになる。かかる権限にもとづき、微細にわたって取材と報道に介入する契機を与えることの弊害ははかり知れない。調整調停等は、メディアと市民による自主的な救済機関においてなされることを尊重すべきである。また訴訟援助もかかる機関の関与は望ましくない。 cf. (青少年有害環境規制法案、個人情報保護法案) |