言論統制    梓澤和幸


個人情報保護新法案の要旨 (2003.03.08 東京朝刊より)

個人情報保護法案の要旨と、関連四法案の内容は次の通り。
(《 》 内は、昨年の臨時国会で廃案となった旧法案を修正した部分)

■総則
(目的) 高度情報通信社会の進展に伴い、個人情報の利用が著しく拡大していることにかんがみ、個人情報の適正な取り扱いに関し、基本理念及び政府による基本方針の作成、その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、個人情報を取り扱う事業者の順守すべき義務等を定めることにより、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護する。

■基本理念
《個人情報は、個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきものであることにかんがみ、その適正な取り扱いが図られなければならない。》

■国及び地方公共団体の責務等
(国の責務) 国は、この法律の趣旨にのっとり、個人情報の適正な取り扱いを確保するために必要な施策を総合的に策定し、及びこれを実施する責務を有する。

(地方公共団体の責務) 地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、その地方公共団体の区域の特性に応じて、個人情報の適正な取り扱いを確保するために必要な施策を策定し、これを実施する責務を有する。

(法制上の措置等) 政府は、国の行政機関について、その保有する個人情報の性質、当該個人情報を保有する目的等を勘案し、その保有する個人情報の適正な取り扱いが確保されるよう法制上の措置その他必要な措置を講ずるものとする。

■個人情報の保護に関する施策等
◆個人情報の保護に関する基本方針
政府は、個人情報の保護に関する施策の総合的かつ一体的な推進を図るため、個人情報の保護に関する基本方針を定めなければならない。内閣総理大臣は、国民生活審議会の意見を聴いて、基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。

◆国の施策
(地方公共団体等への支援) 国は、地方公共団体が策定し、または実施する個人情報の保護に関する施策及び国民または事業者等が個人情報の適正な取り扱いの確保に関して行う活動を支援するため、情報の提供、事業者等が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るための指針の策定その他の必要な措置を講ずるものとする。

(苦情処理のための措置) 国は、個人情報の取り扱いに関し、事業者と本人との間に生じた苦情の適切かつ迅速な処理を図るために必要な措置を講ずるものとする。

◆地方公共団体の施策
(保有する個人情報の保護) 地方公共団体は、その保有する個人情報の性質、当該個人情報を保有する目的等を勘案し、その保有する個人情報の適正な取り扱いが確保されるよう必要な措置を講ずることに努めなければならない。

(苦情の処理のあっせん等) 地方公共団体は、苦情の処理のあっせんその他必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

■個人情報取り扱い事業者の義務等
◆個人情報取り扱い事業者の義務
(利用目的の特定) 個人情報取り扱い事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的をできる限り特定しなければならない。個人情報取り扱い事業者は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。

(利用目的による制限) 個人情報取り扱い事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。個人情報取り扱い事業者は、合併その他の事由により他の個人情報取り扱い事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合は、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて、当該個人情報を取り扱ってはならない。

(適正な取得) 個人情報取り扱い事業者は、偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない。

(取得に際しての利用目的の通知等) 個人情報取り扱い事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を本人に通知し、または公表しなければならない。個人情報取り扱い事業者は、本人との間で契約を締結することに伴って契約書その他の書面(電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む)に記載された当該本人の個人情報を取得する場合、その他本人から直接書面に記載された当該本人の個人情報を取得する場合は、あらかじめ本人に対し、その利用目的を明示しなければならない。ただし、人の生命、身体または財産の保護のために緊急に必要がある場合は、この限りでない。個人情報取り扱い事業者は、利用目的を変更した場合は、変更された利用目的について、本人に通知し、または公表しなければならない。

(データ内容の正確性の確保) 個人情報取り扱い事業者は、利用目的の達成に必要な範囲内において、個人データを正確かつ最新の内容に保つよう努めなければならない。

(安全管理措置) 個人情報取り扱い事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失または毀損(きそん)の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。

(従業者の監督) 個人情報取り扱い事業者は、その従業者に個人データを取り扱わせるに当たっては、当該個人データの安全管理が図られるよう、当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。

(委託先の監督) 個人情報取り扱い事業者は、個人データの取り扱いの全部または一部を委託する場合は、その取り扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。

(第三者提供の制限) 個人情報取り扱い事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。

(保有個人データに関する事項の公表等) 個人情報取り扱い事業者は、保有個人データに関し、〈1〉当該個人情報取り扱い事業者の氏名または名称 〈2〉すべての保有個人データの利用目的――などについて、本人の知り得る状態(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む)に置かなければならない。個人情報取り扱い事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの利用目的の通知を求められたときは、本人に対し、遅滞なく、これを通知しなければならない。

(開示) 個人情報取り扱い事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示(当該本人が識別される保有個人データが存在しないときにその旨を知らせることを含む)を求められたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。

(訂正等) 個人情報取り扱い事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの内容が事実でないという理由によって当該保有個人データの内容の訂正、追加または削除を求められた場合には、その内容の訂正等に関して他の法令の規定により特別の手続きが定められている場合を除き、利用目的の達成に必要な範囲内において、遅滞なく必要な調査を行い、その結果に基づき、当該保有個人データの内容の訂正等を行わなければならない。個人情報取り扱い事業者は、求められた保有個人データの内容の全部もしくは一部について訂正等を行ったとき、または訂正等を行わない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨(訂正等を行ったときは、その内容を含む)を通知しなければならない。

(利用停止等) 個人情報取り扱い事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データが規定に違反して取り扱われているという理由または規定に違反して取得されたものであるという理由によって、当該保有個人データの利用の停止または消去を求められた場合であって、その求めに理由があることが判明したときは、違反を是正するために必要な限度で、遅滞なく、当該保有個人データの利用停止等を行わなければならない。ただし、当該保有個人データの利用停止等に多額の費用を要する場合その他の利用停止等を行うことが困難な場合であって、本人の権利利益を保護するため必要なこれに代わるべき措置をとるときは、この限りでない。

(個人情報取り扱い事業者による苦情の処理) 個人情報取り扱い事業者は、個人情報の取り扱いに関する苦情の適切かつ迅速な処理に努めなければならない。

(報告の徴収) 主務大臣は、規定の施行に必要な限度において、個人情報取り扱い事業者に対し、個人情報の取り扱いに関し報告をさせることができる。

(助言) 主務大臣は、規定の施行に必要な限度において、個人情報取り扱い事業者に対し、個人情報の取り扱いに関し必要な助言をすることができる。

(勧告及び命令) 主務大臣は、個人情報取り扱い事業者が規定に違反した場合において個人の権利利益を保護するため必要があると認めるときは、当該個人情報取り扱い事業者に対し、当該違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置をとるべき旨を勧告することができる。主務大臣は、勧告を受けた個人情報取り扱い事業者が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において、個人の重大な権利利益の侵害が切迫していると認めるときは、当該個人情報取り扱い事業者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。主務大臣は、個人情報取り扱い事業者が規定に違反した場合において、個人の重大な権利利益を害する事実があるため緊急に措置をとる必要があると認めるときは、当該個人情報取り扱い事業者に対し、当該違反行為の中止その他違反を是正するために必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

《(主務大臣の権限の行使の制限) 主務大臣は、個人情報取り扱い事業者に対し報告の徴収、助言、勧告または命令を行うに当たっては、表現の自由、学問の自由、信教の自由及び政治活動の自由を妨げてはならない。主務大臣は、個人情報取り扱い事業者が雑則で義務規定の適用を除外される者に対して個人情報を提供する行為については、その権限を行使しないものとする。》

◆民間団体による個人情報の保護の推進
(認定) 個人情報取り扱い事業者の個人情報の適正な取り扱いの確保を目的として、苦情の処理などの業務を行おうとする法人(法人でない団体で代表者または管理人の定めのあるものを含む)は、主務大臣の認定個人情報保護団体の認定を受けることができる。

(苦情の処理) 認定個人情報保護団体は、本人等から対象事業者の個人情報の取り扱いに関する苦情について解決の申し出があったときは、その相談に応じ、申し出人に必要な助言をし、その苦情に係る事情を調査するとともに、当該対象事業者に対し、その苦情の内容を通知してその迅速な解決を求めなければならない。認定個人情報保護団体は、苦情の解決について必要があると認めるときは、当該対象事業者に対し、文書もしくは口頭による説明を求め、または資料の提出を求めることができる。対象事業者は、認定個人情報保護団体から規定による求めがあったときは、正当な理由がないのに、これを拒んではならない。

(個人情報保護指針) 認定個人情報保護団体は、対象事業者の個人情報の適正な取り扱いの確保のために、利用目的の特定、安全管理のための措置、本人の求めに応じる手続きその他の事項に関し、この法律の規定の趣旨に沿った指針(個人情報保護指針)を作成し、公表するよう努めなければならない。

(目的外利用の禁止) 認定個人情報保護団体は、認定業務の実施に際して知り得た情報を認定業務の用に供する目的以外に利用してはならない。

(報告の徴収) 主務大臣は、規定の施行に必要な限度において、認定個人情報保護団体に対し、認定業務に関し報告をさせることができる。

(命令) 主務大臣は、規定の施行に必要な限度において、認定個人情報保護団体に対し、認定業務の実施の方法の改善、個人情報保護指針の変更その他の必要な措置をとるべき旨を命ずることができる。

■雑則
(適用除外) 個人情報取り扱い事業者のうち次に掲げる者については、《その個人情報を取り扱う目的の全部または一部がそれぞれ当該各号に規定する目的であるときは、個人情報取り扱い事業者の義務等の規定は適用しない。》 〈1〉放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関《(報道を業として行う個人を含む)》=報道の用に供する目的 〈2〉《著述を業として行う者=著述の用に供する目的》 〈3〉大学その他の学術研究を目的とする機関もしくは団体またはそれらに属する者=学術研究の用に供する目的 〈4〉宗教団体=宗教活動(これに付随する活動を含む)の用に供する目的 〈5〉政治団体=政治活動(これに付随する活動を含む)の用に供する目的。

《〈1〉 に規定する 「報道」 とは、不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること(これに基づいて意見または見解を述べることを含む)をいう。》以上の個人情報取り扱い事業者は、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置、個人情報の取り扱いに関する苦情の処理その他の個人情報の適正な取り扱いを確保するために必要な措置を自ら講じ、かつ、当該措置の内容を公表するよう努めなければならない。

■罰則
規定による主務大臣の命令に違反した者は、六月以下の懲役または三十万円以下の罰金に処する。規定による主務大臣への報告をせず、または虚偽の報告をした者は、三十万円以下の罰金に処する。

◆関連4法案
【行政機関個人情報保護法案】
行政機関が個人情報を取り扱う際の制限や、本人の請求による開示・利用停止措置などを規定する。罰則規定として、行政機関の職員・元職員らが、〈1〉正当な理由なしで個人情報ファイル(検索可能なように体系的に構成した個人情報を含む情報)を提供した時は「二年以下の懲役または百万円以下の罰金」〈2〉不正な利益を図る目的で個人情報を提供・盗用または職権を乱用して個人情報を収集した時は「一年以下の懲役または五十万円以下の罰金」――に処するとしている。

【独立行政法人等個人情報保護法案】
独立行政法人、特殊法人など百三十二法人について、行政機関個人情報保護法案と同じ内容を規定する。

【情報公開・個人情報保護審査会設置法案】
情報公開審査会を改組し、個人情報の開示、訂正、利用停止決定等に関する不服申し立てを受けた行政機関の諮問に対して、答申する審査会を設置する。

【行政機関個人情報保護関係整備法案】
行政機関個人情報保護、独立行政法人等個人情報保護、情報公開・個人情報保護審査会設置の三法案の施行に伴い必要となる規定を整備する。