トピックス   梓澤和幸


共謀罪、もっと身近にひきつけて

1、ある特定の団体(たとえば国際テロ団体、組織暴力集団)の、目的遂行のためという印象を与えるが、 条文の上ではしばりはかかっていない。

2、共謀というと、犯罪者同士がこそこそという印象だが、実は刑法という処罰と捜査のための、法律の大改正なのである。

3、例をあげよう。
  神田の商店街をつぶすような大開発があった。こんなストーリーがある。

  そのビルは、商店街に通ずる命の大動脈ともいうべき五本の区道を廃道にする再開発によって可能となるのだった。 この道を通って、東側のオフィス街から昼となれば、サラリーマン、オーエルたちがどっと押し寄せ、喫茶店、古書店、文房具屋さん、 画材屋、カバン、食堂がならぶその商店街は人であふれかえるのであった。

  初夏、ワイシャツを腕まくりした男性、ノーズリーブの二の腕に、陽があたる季節、その商店街は活気に満ちるのであった。
  この商店街の東側の街路には、地場産業ともいうべき中小の書籍取次業者がそこここにあって活況を呈していた。

  この商店街をつなぐ区道をつぶして、上場不動産会社が大きなビルを建てることになると、いったいこの商店街の先行きはどうなるのか。
  繰り返し交渉が行われ、それは深夜に及ぶこともあったが、ついに決裂した。

  ある朝五時、くい打ち機が搬入されことがわかった。たくさんの住民運動にたずさわってきた人や弁護士にとって、 これは決定的瞬間である。
  商店街は、工事現場の入口になっている。50人のピケットラインが立つことになった。 ピケは実力で阻止するのでなく、説得のための手段である。

  先頭には高齢者が立つ。くい打ち機が突入しておこる不測の事態を防ぐためである。 弁護士はこんなとき、逮捕者を出さないことを考える。そのために、業者と話をするときには、腕をうしろ手に組んで、 相手の体に接触しないこと、距離をおくことをアドヴァイスする。

  前の晩にはホテルに泊まった。ある現場では、住民のお一人の家に泊めていただき、おみそ汁、ごはん、塩鮭のごちそうにもなった。 もう亡くなられたが、白髪のこめかみをきりりと刈り上げ、口をぎゅっとむすび、上質のべっこうメガネをかけたあの紳士の、 頑固だが実に正直一徹な表情をなつかしく思い出す。
  今この原稿を書いていると、「やあ、どうです。元気ですか」「初志貫徹、初心一筋」と笑いながら話しかけてくるような気がする。

  共謀罪にもどろう。逮捕は現場のもみ合いの中ではなく、前日か前々日の戦術会議のときに起こると言うことである。

  何故そうなるか。
  いままでの刑法では、事前共謀だけでは決して踏み込めなかった。
  たとえば、イラク戦争に反対するため、明日、首相官邸と国会に入り込んでプラカードを立てる、と、相談したとしても。 実行行為があって初めて、その前の共謀参加者も処罰できた。 

  それが今度は違う。相談しただけで犯罪が成立する。極端だが、会議の現場は現行犯だから、令状なしで踏み込める。
  600以上の犯罪は、これにひっかかる。威力業務妨害、傷害、住居侵入、税法違反、公務執行妨害など、人権、労働、 公害にかかわる弁護士、活動家なら、思いつくかぎりの犯罪がひっかかる。

  実行ではなく、準備、陰謀、予備、共謀が捜査の対象となるのだから盗聴もばっこする。いやあな感じの密告奨励社会になりそうだ。 9,11後のアメリカも暗いが天皇制のある日本はもっと陰湿になるだろう。

4、何故、メディアは騒がない?
  こういう話は、鋭敏な感性をもった人が、はじめ騒ぐ。
  ジャーナリストは環境の監視役だから、一番最初に騒ぐべきなのだが。こういう感覚が弱っているのではないか。いやこの俺もそうだ。
  記者たちがではなく、この世の中全体がどことなくピリピリしていないのである。

  と思って朝ごはんのとき家族に聞くとそうでもない、ラジオでもテレビでもけっこうやっているという。ただわかりにくい、というのだ。

  わかりにくいということは、伝える人がよくわかっていないということだ。 演説の名手だった義父がいっていた。自分がわからないことは絶対相手にわからせることができない。 粉々にくだけるほどにわかることが大切なんだなうん。と自らうなずいていた。

  とにかく、共謀という文字をはなれよう。刑法の構成要件をあらゆる罪について大改正する、処罰しやすく、 捜査官憲が民間に入りやすくする大改正なのだということを、記者の言葉の力量で浸透させることだ。

5、現況   四月二八日、衆院法務委員会では、強行採決はさけられた。五月九日に参考人質疑となった。
  稼がれた時間のうちに、ブログ、H.P.でどんどん話を広げよう。 そして東京新聞が特報面でとりあつかったように大きなメデイアの人々にもがんばっていただきたい。