トピックス   梓澤和幸

秘密保全法が連れて行くところ

2010年 1月16日 梓澤 和幸

  秘密保全法? 海上保安庁のビデオ流出で仙石官房長官(当時)があわてて検討させたあの法案か?
  ぼんやりと浮かぶイメージがこれです。しかし、それは大違い。ずばり川柳で核心を突いてみます。
   秘密法 政権守って 国滅ぶ
   秘密は 原発守って 民滅ぶ

  夢の中に出てきたプロレタリア作家小林多喜二は、蟹工船の1ページ目に出てきたこれから船に乗り込む労働者が使った “地獄さえぐんだぜ” という言葉を用いて、こんな風に言いました。
   多喜二 来て 地獄さえぐんだ 秘密法

  どんな法律でしょう。
  軍事、外交、警察の分野にわたり、防衛省、外務省、警察庁、法務省、内閣官房の閣僚たちが “これは秘密だ” と指定した秘密(指定秘)を漏らした者、 漏らせと教唆した者(新聞、テレビの記者)を10年以下の懲役にするという法律です。

  いままで公務員の守秘義務には1年以下の懲役しかつきませんでした。 このおかげで公務員とメディアは萎縮して都合の悪いことは一切隠されることになります。
  原発で福島だけでなく関東一円、いや全国が危ないと指摘されますが、政府は小出しにしか情報を出しません。 パニックになるからと、という説明をしますが、情報の遅れのため、牛肉、牛乳が汚れ、いまや北海道にも安心できませんが、 この法律ができたらもっと隠されるでしょう。
  消費税で中小が破産し、大企業はいっそう儲かるといった情報もフタです。

  もう一つすごいのは、「秘密を守るため、公務員、政治家の身上、思想、行動パターンなどを調査してファイルする構想」 を公然と発表していることです。 すなわち、政治家の思想調査のすすめです。
  特定の公務員は国の存立を揺るがす秘密にふれるのだから、危ない人間ではないか否かを調査せよ。 国会議員は将来総理大臣や外務、防衛大臣になる可能性もあるから、もっと思想調査が必要だと読み取れるところもあります。
  エリート官僚と秘密が国の根幹に座って滅びたこの国の歴史があります。 幼年学校、士官学校、陸大のエリートたちがすべてを握って滅びていった戦前の日本の歴史です。

  国会議員よりも政治家よりも自分たちを高みにおいて、原発推進、アメリカの言うなり、民は切り捨て、 税は大幅値上げでという国家構想をあからさまにした法律は、多喜二が言うように、地獄さえぐ(行く)ことになるのです。
  一人ひとりの人間こそ、尊厳をもった最高の存在という志で闘う必要があります。

  秘密保全法と刑事訴訟法(2012.1.14)
  秘密保全法は法定刑10年とする。官僚たちが 「秘密だぞ」 と指定し、【指定秘】 とした途端に、それを漏らした公務員、秘密管理の業者はぶち込まれる。
  しかしより大きいのは、秘密を漏らせと教唆したり、共謀したとき、公務員が実際に漏らしたと否とにかかわらず、教唆、共謀だけで処罰される、 ということ(独立教唆罪)。

  こんな風になる。
  いま原発で全国は放射能汚染されている。大阪湾のヘドロから4500ベクレル/kgが出た。政府は汚染分布図をもっているはずだ。 しかし、それを出したら騒ぎになるから、警察庁は公共の安全、秩序を守るためと称して指定秘にするだろう。

  ここから先は架空だ。記者はそれを握っている文科省の役人Bの良心を揺さぶって 「出してほしい」 と説得した。 Bは悩んで上司に相談した。上司はあわてて警察に通報。記者は逮捕となる。
  そんなはずはない。裁判官の令状が必要じゃないのか。ところが である。
  ここで法定刑10以下がものをいう。法定刑の上限が3年以上の犯罪については、令状がなくても緊急逮捕ができるのだ(刑事訴訟法210条)。

  こんなこともあり得る。
  何もないところに犯罪をでっち上げ、17名の人を苦しめ、1年半の闘いでようやく無実をはらした志布志事件という冤罪があった。 朝日新聞鹿児島支局のKという記者から公開の席で聞いたことだから記していいだろう。 法廷に出ていない取調べメモ(取調小票といわれている)が訴訟で開示されたら事件はつぶれる(無罪になる)という捜査会議の議事録がある、 とK記者は末端の刑事から聞いた。
  K記者はまことに頼もしい面魂をしている。“顔自体反骨” という表情だ。相手の刑事がふるっている。西郷隆盛に似ていると言うのだ。
  「あなたはなんで警官になったんだ。正義のためだろう。いま正義が踏みにじられて、みんなが苦しんでいるんだ。その材料を出してくれ。」
  ファミレスで(精神的に)取っ組み合いをしている中年の男二人の情景を想像してみよう。

  出た。その資料が出た。紙面を飾った。
  それは進行中の事件の空中楼閣をどすんと崩すものであった。

  ところがどうだ。このとき、秘密保全法の法定刑10年が通れば、K記者は逮捕覚悟で迫らなければならない。
  なぜなら、相手のサツカンがひっかけで取材に応ずるふりをするかもしれないからだ。
  いったい、事件取材はどうなる?

   つっこんだ ネタのむこうに 地獄あり
   サツカンも ブンヤも 一緒に逮捕かな
   エリートの 頭の中の ヤミ構想
   放射能 秘密暴けば 塀の中
   金持ちは 命大事と 外国へ
   原発が 孫より大事か エリートは
   政治家の 子どもや孫は 外国か
   愛国心 説いた裏では子を逃がし
   秘密法 US守ってJ滅ぶ
   秘密法 原発守って 民 滅ぶ
   離散民  こんなくらしに誰がした