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秘密保全法が問うこと
梓澤 和幸
秘密保全法は秘密を開示した公務員の処罰を1年から10年に引き上げる。
ジャーナリストも特別秘密を保持する公務員に働きかけただけで有罪とされる(独立教唆のしくみ)。
海上保安庁ビデオ流出が法案準備の動機と理解する向きが多い。しかし違う。1985年の国家秘密法廃案以来、虎視眈々と浮上の機会を狙っていた。
有識者会議報告書などによると検討されている法案は次のようなものだ。防衛、外交に関連する特に重大な秘密(特別秘密という)が保護される。
公共の安全が要注意である。それは警察情報のことである。これは80年代の法案にはなかった。
特別秘密の具体的内容は関連省庁の大臣(実際には官僚)において指定する秘密(指定秘)が示す。
警察情報が特別秘密とされたときどんなことが起こるか。それを考えさせる冤罪事件の例がある。
公選法違反(買収)で15人が逮捕起訴された志布志事件と呼ばれるケースである。
最後は無罪判決となった。最長395日勾留され、厳しい取調べから自殺を図る人も出た。無罪を主張する被告人たちは、公判になってからも苦しんだ。
保釈もつかず、勾留も長くなった。弁護活動も厳しかった。裁判官の訴訟指揮や表情を見ても、無実の主張、立証が浸透しているように見えない。
その中で、朝日新聞鹿児島総局は警察官の内部告発の声の取材に力を傾注した。記者たちは過酷な取調べを反映している取調べメモも集めた。
さらに目を見張るのは、検察官と警察捜査幹部との合同会議の議事録を入手したことである。
そこには取調べメモ(取調べ小票とされた)が表に出たら事件は飛ぶとの、捜査幹部の発言もあった。
この内容が報道され、反響を呼んだ。それは無罪判決の推進力となった。警察庁長官の定める指定秘は、こんな内部文書の取材を許さないだろう。
法定刑が3年を超える罪については、令状なしの逮捕(緊急逮捕)という捜査手段がある。逮捕に伴う令状なしの捜索差押の制度もある。
取材の途中に記者は令状なしに逮捕、新聞社やテレビ局は逮捕に伴い、令状なしの捜索差押となる展開を考えておきたい。
原発事故による放射能も、特に広範囲、濃密な汚染の拡散は、「パニックになる」 との理由で指定秘となる可能性がある。
東電福島第一原発事故でもスピーディやメルトダウンが隠された。いま、警戒区域内にとどまらず、福島中通りの福島市、郡山市の放射能汚染は、
発表されている公式情報よりずっと深刻である。チェルノブイリで強制避難区域とされる土壌汚染を優に超えているところもある。
一刻も早く妊婦や乳幼児を避難させる手だてが打たれるべきだ。
自分では安心しているつもりの首都周辺、東京にも深刻なホットスポットがある。関西、四国、日本海沿岸区域も安心できない。
政府が保有しているはずの土壌汚染マップを開示することは、命に直結するテーマである。
それを指定秘とし、10年以下の懲役という重刑の対象とする可能性が高い。
子どもたちのため、市民のためとのやりがいに燃えた記者たちが手錠につながれていく図を想起されたい。
これこそ、漆黒の闇というべきか。小林多喜二の 「蟹工船」 のはじまりを借りれば…。
多喜二来て 地獄さえぐんだ=@秘密法
特高に命奪われた作家の叫びが聞こえるようである。
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