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避けられぬ 「前線活動」 秋田魁新報 2015.7.10
10の法律の改正案と一つの新しい法律の創設。これを安倍政権は一括法案にまとめた。A4で86ページの長文である。
「平和安全法制」と政府は略称する。問題の核心は、武力攻撃事態法の改正と、周辺事態法の改正(重要影響事態法)にある。
従来、武力攻撃事態法では、国土が武力攻撃されるか、そう予測がされなければ自衛隊の防衛出動はなかった。
改正法では、国土が攻撃されなくとも(一定の限定要件はついているが)、米国の国土、軍艦、飛行機、兵士が攻撃されれば自衛隊に出動命令が下る。
命令に反した隊員には、7年以下の懲役刑が待つ。
周辺事態法が改正されての名称あらため重要影響事態法では、朝鮮半島をはじめとする 「東北アジア」 という地域限定は外される。
中東、アフガニスタンをはじめ、世界のどこでも米国の戦争、武力行使の兵站業務を担う。この法案は、自衛隊による 「後方支援」 という言葉を用いている。
おかしな言葉である。英語で 「Logistic support」 というこの軍事活動は、後方ではなく、前線で行う活動だからである。
戦闘地域で後方から前線≠ノ向けて兵士、弾薬、ミサイル、戦車、燃料、食料等を輸送し補給する。武器の修理にも駆け付ける。
現に銃弾が飛び交う戦闘中は停止するというが、前線にまで入り込んだ兵站部隊はどうするというのか。
もっと危険な条文も挿入された。自衛隊は米国など他国の軍隊の遭難者(負傷者、軍艦などから水中に落ちた者)を、戦闘の最中でなければ救助するという。
救助活動をいざ開始したら、銃弾が飛び交うようになっても、継続するというのだ。
こんな事態が考えられる。アメリカの軍艦が攻撃を受け、多数の兵士が海に放り出された。弾が飛んでいないから自衛隊の飛行艇が出動した。
ところが、その現場で戦闘が始まる。もはや後ろに引けず、自衛隊の飛行艇は戦場へと突っ込んでいくのだ。
イラク戦争では、自衛隊のC130輸送機はクウェートからバグダッドまで数百回にわたり多国籍軍の武装兵士を運んだ。
名古屋高裁が詳しく事実認定し、憲法違反と断じた。
戦争は青年の命をいけにえにする。そこでは、命に優先するかに見える大義を掲げる。しかし、それは秘密と嘘で支えられる。
ベトナム戦争時の米国を思い出すと、分かりやすい。
米国の本格介入の発端となったトンキン湾事件(1964年8月)。北ベトナムから米軍艦にあったとされる2回の砲撃は、最初は挑発を受けて行われ、
2回目に至っては存在しなかったとみられる。「でっち上」 ともいえるトンキン湾事件を契機に戦争遂行権限を大統領に与えた米上下院決議の案文は、
4ヶ月も前に書かれていた。
このことは7千ページの政府文書(ペンタゴン・ペーパーズ)の中にあった。
政府高官エルズバーグによる懲役10年を覚悟の告発を受けたニューヨーク・タイムズ紙の連載記事で世界は大がかりな戦争の真実を知った。
この戦争で米兵5万8千人、韓国兵士5千人、ベトナムの人々200万人が死んだ。
米国の武力行使に、日本の青年の命を差し出す法案だとの認識が広がりつつある。
学生、若者の政治的関心は高くないと言われてきたが、首相官邸前や、東京・渋谷駅周辺での彼らの行動が注目を集めている。
憲法学者による 「法案は違憲」 との指摘も関心を高めた。
一方で 「この問題は難しい。自分に関わることなのか」 という人々も少なくない。政府与党は今月中旬にも衆院通過を目指しているという。
70年目の終戦記念日を前に、この7、8月に人々が戦争の記憶を更新し、何を学び、発言するかに、この国の運命が懸かっているという表現は誇張でないと思う。
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