たび重なる悲惨な体験を経て、人類はあらゆる戦争と武力行使を禁止し、これを違法とするに至った。 (国連憲章二条四項) 例外は安保理事会の決議を経た場合 (同憲章四一条、四二条) と自衛権の行使 (五一条) の場合だけである。 アメリカはイギリス一国の支持だけでイラクへの武力行使に踏みきった。 違法どころかこれは犯罪とさえ言うべきものではないのか。 しかし、国際法学者も、メディアも批判の声を十分に響鳴させることができていない。 ともすると、無力感にさえとらわれがちだが、このようなときにこそ、 国際法の原理を確認すること、 「ではどうする?」 と開きなおられたときの理論と実践の方向をたしかめたい、 とするのが、夏期合宿で最上敏樹教授を招く動機だった。 直接伺う教授の言葉は示唆に富んでいた。 「対イラク武力行使は国際法の規範性を劇的に後退させた」 「もの言う人が少ないが 沈黙は現代の追認である」 と現代を評価したあと、アメリカが安全保障理事会決議も求めずに武力行使したことで、 武力行使規範は再変動している、しかしそれは崩壊したわけではない、と述べられた。 そして武力行使が違法である以上占領も違法だと明快に指摘された。 絶望におちこみそうなこの時代の脱出口は何か。 安保理主導から総会主導にむけた国連改革と、1000万人が街頭に出た 「戦争反対」 の市民の声の意義が強調された。 教授は、平和主義を唱導する人こそ、 問題とされる国で迫害される人々の救済と戦争反対の命題との両立という重い倫理的な問いに直面するはずと説く。 (岩波新書 「人道的介入」 六〜七頁) いまイラクへの自衛隊派遣、占領経費負担、朝鮮半島危機、 と日本が武力行使や戦争にまきこまれて行く危険はいっそう増大している。 こんなときでも、市民が声をあげつづけること、NGOとして関係国の状況に関心をもち、 関与の方策をさぐりつづけること、それは人類共通の法規範にもう一度生命を吹き込むのだ。 このことを再確認する、よい機会になったと思う。