エッセイ     梓澤和幸

市民メディア発刊の動機
 (2008.2.18)

  News for the People in Japan (NPJ) が発足して間もないが、メディアの人たちから、よくなぜこの日刊新聞をはじめたのか、弁護士たちの動機を聞かれる。
  このプレスが発足したきっかけとなったのはイラク人質事件のメディアの対応だった。 自己責任論の嵐に飲み込まれ人質の三名が伝えようとしたイラクの現状はかき消された。 メディアの現状を批判しているだけではもう間に合わない、ということから市民メディアを立ち上げよう。しかも弁護士たちの関わる現場の息吹を伝えるメディアをと。
  このことにつき、法律雑誌 「法と民主主義」 の座談会で、当時の熱気をそのままに表現した発言があるのでここに紹介しておきたい。
  座談会にはイラク人質救出にかかわった今井君の兄君、現地まで人質を迎えに行った高見沢弁護士ほか若手弁護士13名が参加した。 この若手の中から News for the People in Japan (NPJ) の働き手が現れた。


  梓澤 「ジャパニーズ・アーミー・リエシュ」 という言葉をぜひ残しておきたい。今井君が記者会見で言っていました。 拘束された時にイラクの人々が口々に言っていた言葉だったと言うのです。それを聞いた時、すごく胸を衝かれました。 イラクの人たちが 「日本の軍隊はなぜ」、この 「なぜ」 という問いかけがすごく悲しくて、深くグサッと胸に突き刺さってくる。 われわれ一人ひとりの胸にものすごく深く問いかけてくるメッセージです。
  私たちは彼らの命が大切で守ったのだけれども、それをさらに超えて、イラクの人たちの深いかなしみと日本に対する失望感を彼らが伝えてくれた。

  それからメディアの問題です。これは松本サリン事件以来言われている、日本のメディアというか、資本主義国のメディア、 エスタブリッシュメントメディアが持っているどうしようもできない体質なのです。 つまり政府とか警察など情報を持っているところにくっついて、そこから情報を得て、 それを流すことによって自分たちの商売を成り立たせているという商業メディアの宿命です。 そのときにそのメディアの悪さを批判しているだけではもうだめな時代なのです。

  今井君たちが自主的にイラクの民衆の声を伝えたのと同様に、こちら側から打ち返していって、 民衆の声を発していくような市民メディアを創設するという時期に来ているのではないか。 これからは有事とか平和とか戦争とか、もうすぐにドーンと新聞一ページの紙面を飾るような大事に市民が巻き込まれていくのです。

  実際、韓国ではインターネットメディアで市民メディアの創設を成功させているのです。 米軍によって中学生が殺されたときの十万人のデモも成功させたし、盧武鉉政権を誕生させた。 今度はまた弾劾に対してそれを乗り越えてということを全部インターネットメディアが下で支えているのです。 三万人の記者がいると言われていて、日刊新聞を出しています。そういうものを運動の中で若手弁護士の世代、今井君たちの世代がつくってやっていく時代ではないか。 そのことを教えてくれたのではないかと言いたい。

『法と民主主義』 2004年6月号より