報道被害救済弁護士ネットワーク活動紹介

報道被害　　　梓澤和幸

〈目次〉
集団的過熱取材─状況と対策　マスコミ学会にて
 報道被害の現場
　　Ⅰ　なぜＮＨＫに訂正放送を命じたか（10/16new!)
　　Ⅱ　判決主文
報道被害救済弁護士ネットワーク活動紹介
報道被害救済弁護士ネットワーク設立表明

報道被害救済弁護士ネットワーク活動紹介

１．日弁連報道被害一斉相談
　日弁連は６月１８日から１週間、報道被害全国一斉無料法律相談にとりくみました。
　私は東京の３つの弁護士会が６月21日、23日に行った相談の準備に参加したほか、新潟、東京での研修会、記者発表と準備にうちこみました。
　その結果を７月10日に司法記者クラブで発表したので、ここに掲載します。ご覧下さい。
　お問い合わせは
　日弁連人権一課　山田さん（電話０３－３５８０－９８４１）まで

日弁連報道被害一斉相談
　　　　　　まとめ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2001年７月10日

　日弁連は、報道被害一斉相談を、６月18日から23日の週に行った。全国38の弁護士会が、電話・面接（一方のみの会もあった。）を実施した。
　その結果は次の通りであった。
一、総数　　７９件（８３とならないのは、電話プラス面接もあるため）
　　電話　　７５件（地域表との違いは重複を一件としたため）
　　面接　　　８件

二、メディアごとの分類（重複もあるので、合計数には違いもあり）
　　新聞　　３８件
　　テレビ　３６件
　　雑誌　　１３件

三、参加した弁護士　　１１７名

四、具体的な相談内容
１、火事の火元であるとする報道
２、犯人疑惑報道
　イ、重要参考人段階で事情聴取を受け、匿名ではあるが、結果的に特定される報道がなされた。
　ロ、逮捕もされていず、捜査も行われていないのに、疑惑報道がなされた。
３、交通事故の加害者として実名報道
　　被害者が飛び出してきたのに、その事情にふれずに、あたかもこちらが暴走していたかの如き報道をされた。
４、性的被害について興味本位の報道
５、交通事故で被害者側に信号無視の過失がある点については書かず、ある新聞は逮捕の事実がないのに、逮捕と報道
６、倒産していないのに、民事再生法の申立で事実上の倒産と報道
７、出生・死亡などの記事がプライヴァシー侵害となる報道
８、ある著名事件で氏名を被疑者に冒用され、その偽名が報道されてしまった。
９、交通事故で、通名とともに実名が出されたが、ふだん明らかにしていない国籍が分かってしまった。
10、住専からの借り入れと会社の倒産
11、少年事件の記録のなまの中身が流失し、テレビでそのまま写された。
12、訴状による一方的報道
　　　　　　　　　　　→経営危機等
13、贈収賄事件の手口を悪質に書かれた
14、加害者と関係ない被害者が顔見知りとされたという報道
15、被害届だけで一方的に書かれた
　　　　　　　　　　　手続きはその後進まず
16、被疑者に言い分のある公務執行妨害で実名報道
　　　　　　　　　　　不起訴になったが修復されず
17、不起訴となった貸金業法違反で実名報道。
　　　　　　　　　　　商売への影響あり。
　　不起訴となった場合は、その旨報道すべきではないか。
18、些細なことで軽く殴打した程度の事件で、警察発表され、実名報道された。仕事に悪影響がでたり、近隣・職場・親類から悪口を言われた。
19、宗教団体の参加誤認報道
20、婦女暴行事件の一方的報道
21、高校生同士のケンカと報道されたが、親が調べた結果一方的暴行による死亡という誤認報道
22、あるタレントから一方的に誹謗・中傷されているので名誉回復の措置をとりたい。
23、性的犯罪で逮捕された際、こちらは全然やってないと否認している被疑事実について、具体的な行為を指摘し、名前・顔写真入りで報道された。逮捕された側の言い分は全く報道されない。
24、ひき逃げ事件における一方的な報道
25、性的犯罪の被害者が特定されてしまう報道

五、意見を表明した内容
１、精神障害者への偏見を助長し、孤立に追いやっているとの意見　　７件
　①池田小事件の報道の後、向精神薬を飲んでいるというだけで家族からさえ危険視される。
　②友人・家族が解雇された。
　③友人から精神病というだけで警戒感をもたれる。
　④働きたくても働けない私たちのこと。
　　病気と闘っている私たちのことを分かってほしい。
　⑤退院ができなくなり、社会復帰が遅れている。
２、そのほか、全国精神障害者家族会連合会からの要望等　　２件
３、同性愛者への偏見助長への批判意見　　　　　　　　　　　　　１件
４、障害者への偏見助長批判　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　１件
５、交通事故を匿名とすべきとする意見　　　　　　　　　　　　　　１件
６、記者・情報源を実名とすべきとする意見　　　　　　　　　　各１件
７、元組員と書く報道は、問題ありとする意見　　　　　　　　　　　１件
８、新聞の苦情処理窓口が丁寧に対応してくれない。
　　ある新聞社は苦情の応答について、こちらの了解なく、録音しているようだがいかがなものか。

２．新潟における研修会
日弁連の報道被害一斉相談にむけて、新潟で弁護士、記者参加のもとに、勉強会が開かれました。
私はそこで、講演の機会を与えられました。その際のレジュメを掲載します。

研修会レジュメ──報道被害救済のための行動

２００１．６．１２
新潟弁護士会にて
梓澤　和幸

一、電話相談の留意点
受任の費用は？

二、交渉
　　新聞
　　テレビ
　　雑誌
　　それぞれ組織の状況を念頭にいれておこう。
　　誤報の場合、相手がいかなる根拠、取材で書いたのかが問題
　　ある事件から
　　坂本弁護士誤報事件
　　　　一日目　　　　地方部長と支局長　　　　取材源の秘匿という抗弁
　　　　二日目　　　　編集局長
　　　こちらの情報をならべて行った。
　　　編集局長が最後に膝をおるように謝った。
　　　意外な告白──取材源はどこか
　　　続報で訂正できないか、という提案
　　　しかしおわびを要求　　　編集局長の決断
　　　取材のもとになる第三者をどちらがおさえるか。
　　　誤った情報が広がっているのだから、訂正を急ぐこと
　　　何が交渉の力になるか。
　　　何といっても事実関係が大切、あわせて法理論も、訴訟になったときの見通しをもとう。
　　　その上で被害体験を書いた側に伝えること
　　　別の事例から
　　　横浜支局で
　　　別件逮捕の事例
　　　　　　　心得　事実にもとづく迫力
　　　　　　　　　　被害の深い把握──当事者の陪席
　　　　　　　　　　適切な交渉相手を得よ

三、報道被害の実態
四、差し止めの仮処分
　　事前になぜ察知できるのか。
　　反対取材がどうしても必要
１、はじめての差し止め体験
　　新聞をみてある人が何度も事務所に電話をかけて来た。
　　著名人の場合の裁判所の出入りをどうするか。
２、本人と弁護士の出会い
３、差し止め申請書
　　誤報、プライバシー侵害、肖像権の侵害という決定的な主張が必要
　　疏明資料はどうするか。
　　陳述書がもつ意外な力
４、裁判所の対応は
　　別室の審尋室
５、即日の呼び出し　　ここの所決定的　　　その日電話で
６、審尋を重ねて和解へ
７、本当に差し止めするときは執行も考えて
　　書籍等出版物の所在を
　　保証金の算定基準は，純利益で
　　　　　心得　速度が勝負
　　　　　　　　第一回面接の重要性──即日呼び出しの実現

五、損害論の改革
　　名誉、プライバシー侵害を専門家の力も借りて科学的に把握したい。
　　「私の青い空がくずれおちるような経験」──ある原告の言葉
　　「いままでの私が私でなくなるような、精神的に抹殺されてしまったような精神的体験」──ある原告の言葉
　　「支店長はなぜ死んだか」文春文庫　上前惇一郎（疋田桂一郎記者の取材から）ほか自殺の事例が報告されているが、心理学、精神医学の援助を受けて、報道被害を科学的に把握できないか。
　　アメリカの不法行為訴訟では対メデイアがもっとも高額で、陪審の平均は２億、判決は2000万円という数字もある。
　　損害論を改革してゆくことも大切な課題である。

まとめにかえて
　　報道被害一斉相談の規模と意義、影響について
　　報道被害の相談活動とは

研修会レジュメ──その２
〈報道規制の動きと市民自治〉
１、青少年環境規制法の会長声明をもって参議院自民党を訪ねた体験から
２、人権機構をめぐる議論
　　人権擁護推進審議会最終答弁（2001年５月25日）の内容の問題点
　　（１）独立性の欠如
　　（２）公権力の人権侵害への取り組みの弱さ
　　（３）民間への調査権限
　　（４）メディアについて
　　　　　　　任意調査と公表はどういう影響をもつか。
３、オルタナティブ（代案）が必要。
　　メディアスクラムをどのように解くのか。……市民自治の強調
　　─弁護士・弁護士会の役割─
４、報道被害
　　いつもと違うメディアの反応