〈目次〉 申請書要約 要請文 エッセイ 意見書 水くむ人々 意見書2 (環境に配慮した基礎工法について) エッセイ (2003年11月6日)
梓澤和幸
柴犬のモモはまだ若くて元気だった。 休日、モモと私は、子どもたちが「しみず川」と呼ぶ湧き水のそばの道を散歩した。 それは、わが家から500メートルほど北に進んで雑木林がおおう斜面を少し下ったところにあった。 秋の明るい陽が差す日の午後だった。わらぶき屋根の上には赤いトタンのおおいがしてある。 その農家の庭に入って行く入口のところに、小川に小さな橋がかかっている。 そのわきに背の高いケヤキの木がある。太い幹を上にたどり、さらに上を見上げると、青い空が見えた。 小川、といってもごく浅く、全く透明で下の砂地がよく見えるのだが、モモはここを通ると、 きまって川の中に入って音をたてて歩いた。ばしゃっ、ばしゃっ、というリズミカルな音を楽しんでいるようだった。 だがこの日、モモは小川に入らずにゆっくりと歩いていた。 農家の入口のところに清水で洗ってぬけるような白い色をした大根がつみかさねられていた。 モモの足が止まった。視線が何かに釘付けになった。サギが1匹首をかしげるようにして立っていた。 1メートルほどの距離のところにいるのだがこちらをちらっとも見ず、こわがるようすもなく悠然と歩く。 白サギは水の中に足を入れるとそのまま全く音をよせずにその足の爪先をのばした。 また次の忍び足。水音は全くしない。魚に気がつかれないようにするための自然の知恵なのだろう。 |