朝鮮半島〜核をめぐる危機〜    梓澤和幸


●目次
38度線からの米軍後退は先制攻撃の予兆だ!
最近ある集まりで発言したことの要旨
朝鮮半島の核危機について
朝鮮半島核問題の理解と解決策の模索
   1.どう見るか、2002年10月北朝鮮の核波紋
   2.北朝鮮、「交渉」と「抑制力」の間で
   3.北朝鮮の核波紋と2003年危機説
   4.韓国、再び「いじめ」をうけることがあっては
   5.最後の陥穽
平和と人権のための日韓法律家広島宣言



朝鮮半島核問題の理解と解決策の模索 (2003年4月3日)

  3月29日、日韓の法律家交流が行なわれ、韓国側約30人、日本側約60人の弁護士が参加し、 その際、韓国 NGOのチョン・ウクシク氏 (平和ネットワーク代表) が報告されたものです。
  非常に興味深い内容ですので、掲載します。
  (関連記事が4月3日朝日新聞朝刊のシンポジウム記事に出ていますので参照してください。)
  尚、梓澤は日本側の事務局長を務めました。

1、どう見るか、2002年10月北朝鮮の核波紋

  2002年ブッシュ政権の 「悪の枢軸」 発言後、緊張と宥和局面を反復した朝鮮半島情勢は、 2002年後半にはいって和解協力と平和という大方向に向かうかのように見えた。 北朝鮮が2002年6月29日発生した西海〔黄海〕交戦に対して遺憾を表明し、 対南、対米、対日外交に積極的な姿勢を闡明した後、朝鮮半島情勢は急激に動き出した。 ブッシュ政権発足後、膠着状態にあった南北関係は、8月末の2次南北経済協力推進委員会を通じて正常化の道に接近し、 京平(ソウル―ピョンヤン)サッカー大会、プサンアジアゲーム、テコンド示範団交流など民間交流協力もより活発に展開された。 特に、9月にはいって南北が京義線、東海線など鉄道、道路連結工事を同時に着工する。 これを前後として朝鮮半島と中国、ロシアをつなぐ鉄のシルクロード事業構想が本格的に推進されつつ、 朝鮮半島が東北アジアの中心国家と浮上するだろうという楽観的な期待感も寄せられ始めた。

  また、2次大戦後、アメリカの外交の陰から抜け出せなかった日本が、 小泉総理のピョンヤン訪問を通じて日朝首脳会談を設けて拉致問題と戦後補償問題解決の枠を形成しつつ、 南北関係にいて、東北アジア冷戦構造のもう一つの軸である日朝間の対立関係の解消にも期待された。 予想外にも金正日国防委員長が日本人拉致を是認、謝罪し、再発防止など日本の要求を大幅受け入れ、 日朝関係改善の戸を開いた。

  こうした北朝鮮の積極的な対外的足どりは、内部的の経済改革措置とあいまって進んだことから、 北朝鮮の変化と朝鮮半島及び東北アジアに新しい時代の開幕に対する期待感も膨らんだのも事実である。 北朝鮮が新義州を経済特区と指定し、「北朝鮮の香港として創る」 と精力的なプロジェクトを推進していることは、 全世界に北朝鮮の改革解放の意志を宣言したものと評価されている。 この過程で日本人拉致問題による日本国内の反北朝鮮感情の高まり、 2000年6月の南北首脳会談を前後とした北朝鮮に対する4億ドルの秘密支援説、中国当局の楊斌新義州特区長官の連行、 拘束など突発事件もあったが、朝鮮半島の和解と協力という歴史の流れを形づくろうとしていた。 もっとも、北朝鮮との対話再開に微温的態度で一貫してきたブッシュ政権は、日朝会談後ピョンヤンに特使を派遣し、 朝鮮半島冷戦構造の中心でありながらも、最も遅れていた米朝関係も改善の扉を開くのではないかという期待感も生まれた。

  しかし、米朝関係の突破口と期待されたアメリカの特使派遣は、全く予想もつかない波紋をもたらした。 ブッシュ政権は、北朝鮮の秘密核開発計画を着手し、10月35日間のジェームス・ケリー国務省次官補のピョンヤン特使訪問時、 この計画に対して北朝鮮が認めたと主張する。朝鮮半島情勢は94年危機以降、最も不安定な状態になったのである。

  アメリカが北朝鮮に特使を派遣してから12日後の10月17日に発表された内容は、三つに要約される。 @北朝鮮の秘密核開発試図の確認及びこれに対する北朝鮮の是認 Aこれによるジュネーブ合意の事実上の死文化  B北朝鮮核問題の平和的解決などである。特にアメリカは、北朝鮮の核開発放棄を誘導するため、 韓国、日本など同盟国と中国、ロシアなど主要国家に、北朝鮮に対して圧力外交に共同歩調をとるよう求めた。

  ところが、北朝鮮が核兵器開発を認めたというアメリカの主張にはいくつか釈然としない部分があった。 まず、過去アメリカが寧辺 (ニョンビョン) や金倉里 (クムチャンリ) のように北朝鮮の核兵器開発疑惑を提起するとき、 確固たる根拠を提示してきた核兵器開発 「地域」 に対する言及は全く見られなかった。 だからといって、アメリカ政府は、北朝鮮がパキスタンから高濃縮ウラニウム施設を密輸入したとの一部の言論の報道に対して 「公式的」 に確認したわけでもない。これは、北朝鮮の核開発疑惑に対する最も基礎的な情報さえ提供されていないことを意味する。

  また、北朝鮮が核兵器開発を認めたと既定事実化しているが、この部分も釈然としない。 10月17日CNNなどアメリカ言論に報道した内容によれば、 ジェームス・ケリー米国務省次官補が姜錫柱 (カン・ソクジュ) 外務省第一副相を 「根拠資料」 もって迫ると、 姜副相が神経質的反応を見せながら 「そうだ、われわれは核プログラムを持っている」 といったようである。 これで北朝鮮が核兵器開発を認めたと 「断定」 するのは性急な側面がある。 北朝鮮は、核波紋発生8日後の10月25日の外務省スポークスマンの談話を通じて、 「アメリカ特使は何らの根拠資料もないまま、われわれが核兵器製造を目的で濃縮ウラニウム計画を推進し、 朝米基本合意書を犯していると決め付けた」 と、アメリカの主張を反駁した。
  したがって、アメリカが裏づける根拠資料をもって北朝鮮に 「自白」 を迫ったか、それとも険悪な対話雰囲気において、 爆発し、とび出した北朝鮮側の発言をアメリカが恣意的に解釈したか、それでもなければ、 北朝鮮が原則的な水準からアメリカの敵対政策が継続する場合、 核兵器を保有する権利があるという警告的な発言かは、依然と不透明な状態のままである。 これに関して、北朝鮮の核波紋の当事者であるジェームス・ケリー次官補の2002年11月19日の記者会見の内容に注目される。 彼は、「北朝鮮側に提示した根拠が朝パ間の核プログラム取引内容を含んだものか」 の記者の質問に、 「北朝鮮の官僚と対話する時、パキスタンという国家は言及されなかった」 と答えた。 これは、「ケリーが北朝鮮側に提示した根拠は北朝鮮とパキスタンの取引内容が盛り込まれた信用状であった」 という、 核波紋後の言論報道の大部分が誤報だったことをケリー自ら認めたのである。 彼は、証拠提示したかどうかについては明確な回答を避けつつ、 「数回プレゼンテーションを行った」 と発言したことがあり、 アメリカの証拠提示に北朝鮮が認めたという通説に疑問を投げかけている。

  また、アメリカ側の主張によって北朝鮮が認めたのは、「核兵器プログラム」 ではなく、「核プログラム」 である。 ここには明確な差異がある。ジュネーブ合意に沿って北朝鮮が 「凍結」 しなければならない核プログラムは、 兵器級プルトニウム抽出が容易である黒鉛減速炉とその関連施設である。ここにはウラニウム施設が含まれていない。 また、北朝鮮がウラニウム施設を保有していることは、既に知られているため、北朝鮮がウラニウム施設を保有していても、 北朝鮮の核兵器開発の証拠と断定したり、ジュネーブ合意など反核協定を反したと非難したりする根拠にはならない。 もちろん、北朝鮮が外国から高濃縮ウラニウムや製造施設を輸入したり、 自体で高濃縮ウラニウム施設を保有していたりすればその性格は変わる 。これは、核拡散禁止条約 (NPT) は勿論のこと、朝鮮半島非核化宣言と軽水炉供給協定などにも反するからである。

  このように、アメリカ側の発表内容は勿論のこと、発表時点と方式にも疑念を抱かせる。 なぜアメリカ特使が北朝鮮から帰国してから12日も過ぎて、これも日課時間の終了後に慌てて発表したのかという問題である。 これに関して、北朝鮮の核開発疑惑問題について、ブッシュ大統領などが参席した国家安全保障会議 (NSC) の場で 解決方法に躊躇うと、政権内の強固派は意図的に一部の言論に情報を流し、 これを気づいたホワイトハウスは慌てて発表したという、アメリカ言論の報道に注目すべきである。 推測に難くないのはNSC会議で「テロとの戦争」の次の目標をイラクと北朝鮮の中のどちらにするかに論議を広げた点である。 一部の官僚たちは、北朝鮮の核開発に証拠が確実になっただけに、北朝鮮に厳しい懲罰を注文したはずだ。 対イラク戦争に精力的な大多数の官僚たちは、北東アジアに緊張が高まれば対イラク戦争に蹉跌を招く恐れがあるから、 問題を拡大してはならないと主張したはずだ。当初、北朝鮮の秘密核開発問題は、 10月26日と予定されたAPEC会議の韓、米、日首脳会談で議論してから発表する予定だったが、 ブッシュ政権内の対北朝鮮強固派たちが言論に流したため、 アメリカ政府はエンバーゴー(embargo)を破って夜遅く慌てて発表したのである。

  もう一つは、ブッシュ政権の官僚たちが10月3〜5日間の米朝間対話内容の全てを明かさず、 北朝鮮の核兵器開発是認と反核協定破棄意思など、好みにあう情報だけを流したのである。 特に、「北朝鮮がジュネーブ合意の破棄意思を表明した」 と主張した部分は、これを前後とした北朝鮮の態度を見れば、 全く説得力がなく、アメリカがジュネーブ合意破棄責任を北朝鮮側に転嫁するための典型的な宣伝戦であるといえよう。 94年3月の板門店南北会談のように、北朝鮮側代表の発言の前後を切り離して「ソウルを火の海発言」だけを韓米政府が公開し、 北朝鮮に対する攻勢の素材として活用した事例を思い出させる。2002年10月3日、アメリカ特使派遣でなされた米朝対話で、 北朝鮮が望んだのは交渉だった。これは、北朝鮮が特使会談後、「ケリー側が傲慢で高圧的な態度を見せた」 と、 強く不満を表した重要な背景でもある。

  アメリカは意図しようがしまいが、今回の北朝鮮の核波紋を通じて朝鮮半島と北東アジアの主導権を回復する成果を挙げた。 発足後、北朝鮮に対して露骨的な不信と「悪の枢軸」発言など強固策一辺倒してきたブッシュ政権は、 予想外の日本の独自的な対北朝鮮外交の基点が、韓、米、日の対北朝鮮協調体系を後退させるのではないかという憂慮を抱いた。 特に、南北関係に続いて朝日関係が正常化されれば、北東アジアでの影響力後退、 及び朝鮮半島の分断と敵対関係に依拠して追求してきた軍備増強、及び北東アジア戦略に少なかならぬ影響を及ぼすことを 憂慮しなければならない。これによってアメリカは、北朝鮮はもちろん、韓国と日本も強く求めてきた米朝対話再開を特使派遣 という形で推進したのである。

  問題は、アメリカの特使派遣の意図である。米朝関係の突破口を開くだろうという一部の期待はあったが、 「探索戦」になるだろうという展望が支配的だったにもかかわらず、アメリカは、北朝鮮の核開発カードを持ってピョンヤンを訪ねた。 特使派遣に前もって核開発情報を韓国と日本に伝えたアメリカの当初の意図は、核開発の証拠を押し付ければ北朝鮮が否認し、 北朝鮮の否認を米朝対話中断の根拠とする予定だったとされる。 ところが、期待に反して北朝鮮が核開発を認めたため、不可避的にその内容を12日遅れて公開するようになったのである。 したがって、アメリカの特使派遣の一次的な目的は、北朝鮮との本格的な対話と交渉を開始するよりは、 むしろ北朝鮮政策の主導権を回復してアメリカより先んじている韓国と日本を統制可能な範囲に縛っておき、 韓国の大統領選とイラク攻撃計画など重要な変数後に「北朝鮮にどう対処するか」に集中しようとするところにあっただろう。 アメリカは、当初から特使派遣は「別の目的」があったのである。 時間はアメリカの味方であるということをブッシュ政権はよく知っており、 また時間を自分の味方にする必要性も大きくなっていたのである。

  こうした説明は、北朝鮮の核波紋後、ブッシュ政権の態度を通じてその根拠を確保することができる。 北朝鮮が秘密裏に核開発をしていれば、これはアメリカにも至急で厳重な事態である。 脱冷戦後、アメリカからならず者国家と、ブッシュ政権発足後は 「悪の枢軸」 と指定された北朝鮮が核兵器を保有することは、 核兵器不拡散 (NPT) 体制の根本を揺るがす事件である。また、脱冷戦後、むしろ軍備競争が強化されている北東アジアで、 北朝鮮が核兵器を保有すれば、これはただちに日本と韓国の核保有論の勢いにつながるため、 北東アジアに核軍備競争を引き起こす危険性さえある。北朝鮮の核保有は、このように単に朝鮮半島次元に止まるのではなく、 全世界の核不拡散体制及び日本の非核三原則にも極めて大きな影響を及ぼす、いわば「玉突き効果」をもたらす。

  しかし、ブッシュ政権は政治的捜査次元ではこの問題を緊急で重大な事案と受け止めつつ、政策的には 「遅延」 で一貫した。 少なくとも、核兵器をはじめ大量破壊兵器の観点からみれば、 イラクよりは北朝鮮の方が深刻な問題を引き起こしているにもかかわらず、 「平和的解決」 を強調し、「平和的解決」 を強調しながらも北朝鮮との対話と交渉には応じない政策的方向は、 ブッシュ政権が北朝鮮の核波紋にどのように対応しているかを示している。 また、就任初期からジュネーブ合意に懐疑を表し、ジュネーブ合意破棄の名分を探ってきたブッシュ政権が、 北朝鮮の秘密核開発を強く提起した後には、ジュネーブ合意の破棄を公式化しないのも、 北朝鮮問題を慌てて対処しないという間接的な意思表明と解することができる。 これは結局、対話と交渉よりは政治外交的、軍事的圧力を通じて北朝鮮を屈服させようという既存の立場を維持しながらも、 軍事的対応やジュネーブ合意破棄のような超強硬手段をとれば、イラク攻撃計画に蹉跌を招くことを憂慮して、 多くの時間を必要とする「外交的圧力」政策を採択する方向で「短期的」な政策をたてたと思われる。

  2、北朝鮮、「交渉」と「抑制力」の間で

  2002年10月に起こった北朝鮮の核波紋は、94年危機を収拾して米朝関係改善の方向性を提示したジュネーブ合意が 破棄局面に直面していることを意味する。発足前からブッシュ大統領をはじめ米政権官僚の大部分がジュネーブ合意は 妥当ではないと認識していたことは、既に広く知られている事実である。しかし、ジュネーブ合意をまず破棄するには 重い政治負担を強いられ、ジュネーブ合意を誠実に履行するでも、だからといって、まず破棄するでもない態度を見せてきた。 こうした状況で、北朝鮮が秘密裏に核プログラムを持っていることを認め、反核協定にそれ以上拘束されないと 「解釈」 する素地を提供すると、ブッシュ政権は 「泣きそうな子供をひっぱたく 〔泣きっ面に蜂〕」 のように、 これをジュネーブ合意破棄の絶好のチャンスにしようとしたのである。ブッシュ政権はジュネーブ合意破棄の可能性を 既に数回にわたってほのめかした。ブッシュ大統領が2002年3月に北朝鮮がジュネーブ合意を遵守していると米議会に 確認することを最初に拒否したのは、ブッシュ政権がジュネーブ合意破棄の手順を踏んでいる信号と解釈されてもした。 北朝鮮とアメリカの両者は、相手がまずジュネーブ合意を破棄しない限り、誠実に遵守する立場を表明してきたが、 両側ともに相手に大きな不満をもっている。北朝鮮は、アメリカから約束された軽水炉事業が5~6年以上、 遅延するにつれ、莫大な電力損失が不可避的で、政治的、経済的関係正常化約束もほとんど守られなかったと見ている。 また、ブッシュ政権が北朝鮮を核先制攻撃対象としているのも不満の要因である。 一方アメリカは、前に言及したようにジュネーブ合意自体を嫌い、北朝鮮が核査察を受ける時期になったにもかかわらず、 受けないていると非難し、ジュネーブ合意破棄の可能性をほのめかした。 こうした緊張の中で不安な均衡を維持してきたジュネーブ合意は、 今回の北朝鮮の核波紋を通じてつながりが断ち切られる危機に直面している。 そして、これはブッシュ政権内強硬派の願うところもある。

  北朝鮮の核波紋が起こる前までの北朝鮮とアメリカのジュネーブ合意履行成果を比較してみれば、 北朝鮮の方が上なのは事実である。94年10月米朝間に締結されたジュネーブ合意に対する一般的な説明は、 北朝鮮が核開発を凍結し、アメリカなど国際社会はその代価として100万KW軽水炉2基を提供するのである。 しかし、これはジュネーブ合意の「一面」に過ぎない。北朝鮮の核カードは基本的に安保的動機から発しているだけに、 北朝鮮は一貫してアメリカから寧辺核施設放棄による電力補償とともに核兵器開発放棄の見返りとして体制安全保障を求め、 ジュネーブ合意には実際、このような北朝鮮側の要求事項が相当部分反映されていた。 これは今日の北朝鮮核問題を理解し、対応策を見出すにも重要な意味を持つ。

  まず、北朝鮮の義務事項の履行を点検してみよう。ジュネーブ合意により北朝鮮は、 @1ヶ月以内に黒鉛減速炉及び関連施設を完全凍結 A軽水炉事業完了とともに黒鉛減速炉及び関連施設解体  B国際原子力機構(IAEA)の黒鉛減速炉及び関連施設凍結監視の許容及びこれに対する北朝鮮の全面的協力  C北朝鮮の朝鮮半島非核化共同宣言履行 D南北対話着手 E軽水炉事業の相当部分が完了するとき、 ただし主要核心部品が引き渡される前に IAEAの査察受容などの義務事項を履行するようになっている。

  北朝鮮は、ジュネーブ合意で規定した黒鉛減速炉及び関連施設を凍結し、これに対するIAEAの監視活動を保障してきた。 したがって、最も中心的部分である核施設凍結を誠実に遵守してきたとみられる。これは2001年までアメリカ政府も認めたことがある。 最も問題になってきたのは、北朝鮮が核査察を受け入れる時点である。 アメリカは、「軽水炉の核心部品が引き渡される前」 という文句を、北朝鮮は 「軽水炉事業の相当部分が完了する時」 と いう文句を主張の根拠としてきた。アメリカは、核心部品が予想引き渡す時点が2005年下半期で、 核査察を完了するには3年程度の時間が所要するため、すぐに核査察を受けなければならないと北朝鮮を圧迫してきた。

  一方、北朝鮮は、軽水炉の工程率が2002年10月現在24%にすぎなく、 軽水炉事業の相当部分が完了する時点は2005年上半期と予想されるので、現在は核査察を受ける理由がないと対立してきた。 したがって、核査察の時点に関して、どちらの主張が正しいとはいい難い。 これはジュネーブ合意文に、核査察受け入れ時点が 「具体的に」 明記されていないため、 米朝間の政治的妥協の事案になるしかない。 しかし、北朝鮮が濃縮ウラニウムを利用した秘密核開発を図っているのが事実であれば、 北朝鮮がジュネーブ合意に反したのは明らかである。厳密に言って、ジュネーブ合意には濃縮ウラニウムに対する言及がないため、 技術的には北朝鮮がジュネーブ合意に反しないと主張することができるが、 根本的にはジュネーブ合意及び朝鮮半島非核化共同宣言は、北朝鮮の核兵器開発自体を放棄させるのを目的とするため、 北朝鮮の核開発が事実であれば、これは明らかにジュネーブ合意に反したのである。

  アメリカの義務事項履行は、進んでいないといってよい。一部の条項、特に安保関連条項は、既に反したとの解釈も可能である。 アメリカは @2003年までに北朝鮮に軽水炉提供における主導的役割の執行 A軽水炉1基完工まで毎年50万トンの重油を提供  B北朝鮮に対する核兵器使用及び使用威嚇をしないという消極的安全保障 (NSA) を公式に保障  C政治的、経済的関係正常化などの遵守を約束した。

  しかし、この中、重油提供を除いて誠実に履行されたものはないとしても過言ではない。 部分的に北朝鮮に責任があるのは事実であるが、しかし、軽水炉完工時点は、少なくとも5年以上の遅延が避けられなくなり、 経済制裁緩和約束も守られなかった。なによりも、北朝鮮が核開発放棄の前提条件である消極的安全保障問題に関して、 アメリカが核態勢検討 (NPR) 報告書で、北朝鮮を核先制攻撃対象に含めたため、北朝鮮に大きな刺激を与えたことがあった。 したがって、北朝鮮が「アメリカはジュネーブ合意条項の一つも誠実に守らなかった」と抗弁するのも難癖であると見ることはできない。

  北朝鮮が、核波紋の発生後の8日目、10月25日の外務省スポークスマンの談話を通じて初めて公式に立場を表明したのは、 北朝鮮側の苦悶とジレンマを表している。北朝鮮は、この談話で南北、朝露、朝中、朝日関係などは急進展しているが、 アメリカの敵対政策のため、朝米関係だけが悪化していると指摘した。 特に、朝米関係正常化に対して期待を抱いてアメリカ特使を受け入れたが、 アメリカ特使の一方的で傲慢な態度に失望したと強調した。

  北朝鮮はまた、合意文を条目毎に挙げてアメリカが誠実に履行した条目は一つもないと強調し、 「当初アメリカが合意文を採択するとき履行意思があったか、 それとも、われわれがまもなく崩壊するだろうという予想で嘘をついたかアメリカだけが知ることだ」と、 アメリカ側に対して不満を吐露した。しかし、ジュネーブ合意破棄については公式の言及はなく、 北朝鮮側がまずジュネーブ合意を破棄する意思がない点を見せていた。

  注目を集めた北朝鮮の核開発是認に関して、「アメリカ特使は何らの根拠資料もないまま、 われわれが核兵器製造を目的に濃縮ウラニウム計画を推進し、朝米基本合意文を違反していると決め付けた」 と主張し、 アメリカが証拠資料を提示して北朝鮮がこれを認めたというアメリカ側の主張を否認した。 しかし、核開発については確認も否認もしなかった。これは、基本的にアメリカから体制安全保障を受けない限り、 核開発オプションを放棄しない意志の披瀝である。 「われわれはアメリカ大統領特使に、アメリカによって加重される核圧殺威嚇に対処し、 われわれが自主権と生存権を護るために核兵器は勿論、 これ以上のものも持つ権利があることを明白に説明した」 と、強調したことがこれを証明している。

  実際に、北朝鮮の核波紋を単純に北朝鮮がアメリカ及び国際社会との約束を犯して秘密裏に 核兵器開発しているという観点から理解してはならない。同時に、北朝鮮が核カードを以って 瀬戸際戦略をしているという主張も、客観的な接近や解決方案の探求とは程遠い。北朝鮮が核 再開発カードを持ち出したのはアメリカのジュネーブ合意の不履行及びブッシュ政権発足後、 加重された体制脅威に対する「反作用」からである。即ち、北朝鮮の核カードは、ジュネーブ 合意に対する背信感及びブッシュ政権の敵対政策に対する不安感と弱小国としての 「絶望な表 現」 であり、「最後の堡塁」 としての性格が強い。

  北朝鮮の感じる焦燥心は強いにちがいない。「イラクの次は自分だ」 という不安感を解消 する根拠は、目をこすって探してみても何もないからである。これにつれ、北朝鮮は二つの 目的で 「核開発オプション」 を復活させたと見ることができる。一つは、アメリカのイラク 戦争が始まる前に、最小限アメリカから体制安全の保障を得なければならないという切迫感 である。こうした切迫感は、核開発放棄を条件にアメリカとの不可侵条約の締結を求めると ころに表れる。これは、基本的に北朝鮮が望む 「最後の堡塁」 としての核兵器という対米戦 争の抑制力の追及よりは、むしろ「交渉」を通じて体制安全保障を得ようという動機のほう が優先していることを意味している。「交渉の方法も抑制力の方法もあり得るが、われわれ は前者を望んでいる」と、10月25日談話をはじめ、一貫した立場を明かにしているのもこの ためである。しかし、こうした北朝鮮の要求は、ブッシュ政権に 「一蹴」 されている。ブッ シュ政権は「悪を保障する時代はもう去った」 と述べつつ、迅速かつ検証可能な方法で核開 発放棄を北朝鮮に求めている。しかし、こうしたブッシュ政権の立場は、北朝鮮の主張を賛 成しなくとも、客観性と道徳性に欠けている。世界で最も多く、そして最も強力な核兵器を 保有する国家が、非核国家に核兵器開発放棄を求めるには、核兵器使用及び使用威嚇をしな いという約束をしなければならないからだ。ブッシュ政権はこうした要求を拒否している。

  そこで北朝鮮にはジレンマが生じるにちがいない。核開発放棄の条件で求めている消極的 安全保障をはじめとする不可侵条約がアメリカに拒否されている現実から、北朝鮮がとれる 措置は極めて制限されており、どういう措置をとっても、北朝鮮としては極めて危険な負担 がともなうからだ。アメリカが求めているとおり北朝鮮がまず核開発を放棄すれば、北朝鮮 が求める体制安全保障をアメリカが「検証可能な方法」で提供する可能性が極めて低いこと を北朝鮮はよく知っている。これはジュネーブ合意の 「学習効果」 でもある。逆に、北朝鮮 が対米抑制力次元から核兵器の開発を公式化し、推進すれば、国際社会からの孤立及び制裁 が加速化されるため、極めて大きい体制不安にさらされるほかならない。

  こうした北朝鮮のジレンマは、将来、朝鮮半島情勢にきわめて重要な意味を持つにちがい ない。アメリカから体制安全脅威が加重されている現状から、またアメリカの先制攻撃を抑 制する強力な軍事的手段が不足している状況から、より重要なのは、イラクのつぎは北朝鮮 になるだろうという強い不安感を抱いている現実から、最後の堡塁としての 「核カード」 は、 北朝鮮として譲歩することのできない事案である。北朝鮮が核兵器を保有しているという心 証をアメリカに与えるのとそうでない場合と、アメリカの北朝鮮に対する軍事行動を阻止す る抑制力には根本的な差があるからだ。

  3、北朝鮮の核波紋と2003年危機説

  今度の北朝鮮の核波紋は、以前から提起されてきた2003年危機説と関連して考えなければ ならない。即ち、静態的観点ではなく、動態的観点から今度の波紋を考察し、朝鮮半島危機 予防の次元から短期的、中長期的対応方策を模索しなければならない。北朝鮮の核波紋、及 びそれに続くアメリカの北朝鮮に対する圧迫、孤立政策は、2003年危機説が現実として現れ る可能性が一段と高まったことを意味する。

 ブッシュ政権は、「平和的解決」 を強調しており、北朝鮮も対話と交渉を通じて解決を 追求する点から、イラク問題が解決されるまでは深刻な危機状況が到来する可能性は高くない。 しかし、ところどころに変数が多く潜んでいる点を見逃すには行かない。まず、94年危機を収 拾したジュネーブ合意自体が極めて危うい状態にある。また、基本的にアメリカの平和的解決は 対話と交渉を通じた問題解決ではなく、北朝鮮の一方的な屈服を追求する方向を示している。 経験から見れば、こうしたアメリカの北朝鮮政策は、北朝鮮の屈服ではなく、反発をもたらす 可能性が高く、実際に北朝鮮はアメリカの強硬な対応に応じて、「核示威」 の水位を高めている。 また、前に述べたように、容易に核開発を公式化し得ない北朝鮮の事情も考えなければならない。

  今度の核波紋が実際、危機につながる変数を将来の情勢の展望とともに説明してみれば次のよう である。まずブッシュ政権のイラク戦争計画である。ブッシュ政権が北朝鮮の核波紋の 「平和的解 決」 を強調する重要な理由は、朝鮮半島と北東アジアで緊張が高まればイラク戦争計画に悪影響を 及ぼし得るという憂慮があるである。これは米国内では、どちらがもっと脅威的か、どの問題から 解決するかをめぐって論議されている。したがって、アメリカのイラク政策が戦争に帰結するか、 また戦争に帰結すれば終戦までに時間がいくらかかるかが、ブッシュ政権の北朝鮮政策の変化をも たらす中心的変数といってよい。戦争を通じてでも、あるいは連合国の決議案を通じた非軍事的方 法を通じてでも、イラク問題が解決された後、アメリカの対外政策の優先順位は北朝鮮に移るだろ う。アメリカがイラク問題解決以降にも、北朝鮮の核問題に対する平和的解決の原則が守られるか は不透明である。次に、核波紋に対する北朝鮮の態度である。北朝鮮が高濃縮ウラニウムを利用し て秘密裏に核兵器開発を図ったのが事実であり、アメリカが求める検証可能な核開発放棄を受け入 れるなら、問題解決の突破口は見出せる。しかし、北朝鮮が秘密裏に核開発を図っているか、図っ ているとすれば、どこでどのプログラムで行っているか、まだ不明確な状況であるから、この変数 も極めて流動的な状況にあるといえる。また2002年12月からは、寧辺核施設がむしろ大きな懸案に なっており、北朝鮮がアメリカの強硬対応、及び交渉不可方針に対立して核施設凍結の解除宣言、 封印及び監視カメラ除去、IAEA査察団の追放、NPT脱退宣言など 「核示威」 の強度を高める につれ、核問題は、さらに複雑な様相を現している。北朝鮮のこうした一連の核関連措置は、最悪 の電力難を緩和させようとする内部的目的とともに、早めにアメリカから体制安全の保障を得よう とする外交目的を同時にもっている。したがって、こうした北朝鮮側の切迫な必要が満たされない 限り、あるいは満たされる確実な展望がない限り、北朝鮮が核問題に譲歩措置をとるに期待し難い。

  三つ目は、韓国の次期政権が北朝鮮核問題に対してどんな立場をとるかの問題である。 事案の性格とアメリカの態度を見れば、今度の北朝鮮の核波紋は、長期化する可能性が高く、 盧武鉉 (ノムヒョン) 政権の立場と役割が極めて重要にちがいない。盧武鉉次期政権が北朝鮮 の核開発を容認しない立場とともに、アメリカの北朝鮮に対する武力行使及びアメリカ主導の 北朝鮮に対する制裁及び封鎖に反対する立場を表明したことがあるから、緊張緩和の役割を果 たすと見られる。しかし、北朝鮮の核問題が長期化され、北朝鮮が核武装に近つけば近つくほ ど、韓国の立場もそれだけ狭くなる点も考えなければならない。

  四つ目は、日本など国際社会の立場と役割である。 日本がジュネーブ合意の破棄を望んでいるアメリカに同調するか、それともジュネーブ合意を 維持しながら北朝鮮の核問題解決と朝日関係正常化を誠実に推進するかが大きな関心の的である。 これは、盧武鉉政権の態度とも相当部分関連する問題でもある。 小泉政権がアメリカの陰から抜け出して果敢な北朝鮮に対する独自外交を展開し得る重要な背景が、 金大中政権の役割にあったのを想起すればなおさらである。 また、KEDO会員国の EU、北朝鮮に大きな影響力を行使してきた中国、朝鮮半島での 利害関係及び影響力回復を狙っているロシアなどの立場と役割も注目される。

  では、将来朝鮮半島情勢はどんな展開を見せるのか。
脱冷戦後、数回経験してきた危機のように、「高まる危機」 は平和的解決のチャンスとして作用す るのか。それとも北朝鮮の核波紋の前から提起されてきた2003年危機説が現実化するのか。 また政治、経済的危機を超えて、戦争の可能性までをも憂慮する状況が発生するのか。

  前に言及した四つの変数とともに他の重要な問題と総合的に考えれば、 朝鮮半島の危機が現実化する可能性は高いと、深刻に憂慮せざるを得ない。 こうした展望は別紙に譲ることにするが、今度の核波紋との脈絡から見れば、 次のように整理することができる。

  まず、アメリカは 「交渉不可」 路線を固守しつつ、北朝鮮に対する報復措置を漸次具体化し、 その強度を高める可能性が高いという点である。ここには短期的、中期的、長期的な報復措置が浮 上する。ブッシュ政権は、自ら北朝鮮の核開発を公式化している状況から、北朝鮮への重油提供及 び軽水炉事業を継続する名分を喪失したとみるべきである。重油提供は、2002年11月から中断され ており、軽水炉事業中断も「時間調整」だけが残されているといっても過言ではない。
  特に、問題解決の重要な糸口といわれている重油提供の再開は、北朝鮮の画期的な譲歩がない限り 期待し難い。アメリカの「短期的」報復措置は、ジュネーブ合意の米側の義務を遅延、中断に止ま らない。その間、世界最大の北朝鮮の支援国家であると強調してきた米政府は、2002年末、北朝鮮 に対する食糧支援の前提条件に食糧配給地域に対する国際監視団の自由な接近と監視を許容しなけ ればならないという条件をつけた。しかし、アメリカ政府が北朝鮮に対する食糧支援の前提条件を つけたのははじめのことで、これは表面的な理由で食糧支援を梃子として核放棄など北朝鮮に圧力 を掛けようとするのではないかという分析が説得力を得ている。アメリカは2001年に約30万トンの 食糧を北朝鮮に支援したが、2002年度には15万トンに大幅減少に続いて、2003年の支援に関して も配分の透明性を前提条件として持ち出し、支援量を再び大幅減らすと予想されている。これは、 米政府が食糧支援を、北朝鮮を屈服させるためのもう一つの「武器」と活用しようという意図を間 接的に明らかにしたものといえる。
  「住民たちが餓死している状況をどこまで耐えるか見よう」 式の北朝鮮政策が強化されている。 ここに北朝鮮が屈服すれば外交的勝利に、そうでなければ北朝鮮政府を非難する最も有力な根拠を 確保するという政治的なねらいが潜んでいる。

  これを短期的、初期の対応措置とすれば、連合国安保理を通じた制裁推進、韓国、日本、中国、 ロシアなどに北朝鮮に対する圧迫及び関係断絶要求の強化、非外交的な手段に対する言及、朝鮮半 島周辺の軍事力増強などは「中期的」な措置だろう。特に北朝鮮が IAEA査察団の追放に続いて、 NPT脱退まで宣言し、アメリカは、核問題をめぐる米朝間の対決軸は「北朝鮮対アメリカ」では なく、「北朝鮮対国際社会」 であるという有力な根拠を確保している。 こうした北朝鮮とアメリカ間の 「作用−反作用」 の悪循環が継続される状況から、イラク問題が終 結すれば、ブッシュ政権の軍事力の使用及び使用威嚇を意味する「長期的」な措置も準備していく だろう。

  次に、問題の発端となった高濃縮ウラニウム疑惑解消自体が極めて困難であるうえに、 アメリカがこれに満足しない点である。アメリカはこの機会にジュネーブ合意によって 軽水炉事業が相当部分完了した後 (軽水炉工程の場合、2005年頃) に開始されることに なっている寧辺核施設に対する特別査察を貫徹させるだろう。 即ち、高濃縮ウラニウムを利用した「現在」核開発疑惑だけでなく、寧辺核施設を 通じた「過去」核開発、そして寧辺核施設の再稼動を通じた「未来」の核開発問題まで 「迅速で検証可能な方法を通じた廃棄」を北朝鮮に求める可能性が極めて高い。 こうなれば、北朝鮮の核波紋の解決は、さらに、こじれるにちがいない。 北朝鮮は現在、寧辺核施設に対する特別査察を受け入れないことと、軽水炉事業遅延 による電力損失補償を主張してきたからである。これは、高濃縮ウラニウム論議に発展 した北朝鮮の核波紋をさらに複雑に展開することを予告している。また、寧辺核施設を 利用したプルトニウム核兵器を製造過程とは異なって、高濃縮ウラニウムを利用した核開発は、 隠蔽が容易であるため、査察活動が極めて困難である点も問題として浮上するだろう。

  三つに、前にも詳しく述べたように、北朝鮮は簡単に核開発を放棄できない苦衷がある点であ る。
アメリカから体制安全保障を受けない状況で核開発オプションを放棄することは、有力な戦争抑制力 の喪失を意味するからである。したがって、北朝鮮は、アメリカの非妥協的な路線が継続され、 制裁及び封鎖の水準が高まれば、核開発計画にも拍車を掛けるだろう。

  四つに、不可侵条約の締結はもちろん、北朝鮮の核開発放棄の最小限の前提条件とも言える アメリカの北朝鮮に対する消極的安全保障を期待し難い点である。消極的安全保障とは、 核保有国が非核国家に対して核兵器使用及び使用威嚇をしないと公式的に約束することで、 米朝間のジュネーブ合意はもちろん、全地球的次元から核兵器拡散を防止するNPT体制の 基本精神といえる。核大国から核攻撃の脅威を受ける状態で、非核国家は核兵器開発を放棄できな いからである。
  しかし、ブッシュ政権は核態勢検討 (NPR) 報告書を通じて、 北朝鮮、イラクをはじめイラン、シリア、リビアなど非核国家に対して核兵器先制攻撃戦略を 公式化することによって、NPT体制の基盤を崩し得ると批判されてきた。
それに、ブッシュ政権は北朝鮮、イラクなどの地下施設を破壊する小型核兵器開発にも拍車を掛け ている。
  このことから、ブッシュ政権が北朝鮮の核開発放棄の前提条件に消極的安全保障を確約することを 期待し難い。
  北朝鮮に消極的安全保障の約束は、北朝鮮政策だけでなく、核戦略全体を総体的に再検討しなけれ ばならないということを意味するからである。

  またブッシュ政権は、生物化学兵器攻撃に対しても核報復を明示しており、アメリカによって 最大の生物・化学兵器保有国と分類された北朝鮮が、アメリカから消極的安全保障を受けのは難しく なるに違いない。それより重要なのは、アメリカの観点からみる 「公平性の問題」 である。
  即ち、アメリカが北朝鮮に消極的安全保障を確約すれば、核態勢検討(NPR)に明示された他の 国家からの反発も激しくなるに違いない。米側の視角からみれば、北朝鮮が核開発の試図を通じて 消極的安全保障を受けるなら、アメリカの先制核攻撃対象に含まれた他の国家も北朝鮮と類似した 試をする可能性があるという憂慮が提起されるかもしれない。これは、アメリカが北朝鮮の核開発 放棄を誘導し得る最小限の条件も充たされ難いという意味である。

  五つに、日本の 「アメリカの範囲」 への復帰である。2002年9月17日の朝日首脳会談を通じて北 朝鮮に対する独自外交を展開した小泉政権は、拉致問題に対する国内の強硬世論に続いて北朝鮮の 核波紋によって立地が狭くなった状態である。特に、日本政府が北朝鮮核波紋後、「核問題解決な しに修交はありえない」 と強硬な立場に転換したのは、日本が再びアメリカ外交の陰に復帰してい るものであると思われる。こうした流れの反映として、安倍晋三日本官房副長官が11月2日朝日新 聞とのインタビューで、「北朝鮮が現行兵力の維持を継続すれば、北朝鮮に対する経済協力は困難 だ」 と立場を明かした。これより一歩進んで、日本は2002年12月16日ワシントンでコーリン・パ ウエル米国務長官、ポール・ウォルフォウィッツ米国防副長官、川口順子日本外相、石破茂日本防 衛長官が参加した 「2+2米日安保協議会」 で、北朝鮮に対する圧迫及び制裁強化、北朝鮮が非核 兵器である生物・化学兵器を使用した場合にも、核報復を明示、MD参加問題対する好意的考慮な ど、米側の要求を大幅受け入れた。これは、北朝鮮の武装解除が前提にならない状態で、朝日修好 は容認しないというブッシュ政権の立場が強く投影されている。
  こうした日本の政策気流の変化は、日本の北朝鮮に対する和解協力の基調が力を失っており、 将来日本の積極的な役割を期待し難いと思われる事を示している。

  六つに、アメリカが軍事戦略 (意図) と武器体系 (能力) 側面から徐々に北朝鮮に対する 軍事行動の敷居を越えていることである。ブッシュ政権は、「なぜ北朝鮮に武力行使をしない のか」という米国内の問題提起に対して、「軍事的オプションがないのではなく、いい手段が ないためだ」 と回答したことがある。逆に言えば、アメリカが北朝鮮を早期に制圧し、北朝鮮 の報復攻撃を相当無力化する「いい手段」を確保した場合は、状況が変わるという意味であろう。 実際に、ブッシュ政権の北朝鮮に対する軍事戦略及び軍事力は、速いテンポで強化されている。 非拡散 (外交) 戦略より大拡散(軍事)戦略に主眼点をおく趨勢、北朝鮮の大量破壊兵器問題を 「テロとの戦争」 の観点から扱う強硬な姿勢、核先制攻撃採択及び核兵器使用制限の緩和、 北朝鮮のミサイルを無力化するMD体系の開発及び配置、対砲兵戦略の飛躍的向上、朝鮮半島内 主要武器体制の事前配置 (prepositioning)、北朝鮮の地下要塞を破壊する武器体系の大々的増強、 現代戦争で最も重要な 「指揮統制通信コンピューター及び情報 (C4I)」 能力の画期的な向上、 及び精密打撃能力の向上などアメリカの軍事戦略及び武器体系は、94年危機当時よりはるかに強力 になっている。94年とは異なって、日本が新ガイドラインと周辺事態法などを通じて朝鮮半島有事時 米軍の後方支援役割を果たすようになった点も注目すべきである。
  これはブッシュ政権が必要と判断した場合、北朝鮮に対する軍事行動に自信感を与える物理的な メカニズムであり、「北朝鮮はイラクやアフガニスタンなどとは異なる」という判断から、 「まさかアメリカは北朝鮮を攻撃することはあるまい」という考えが極めて危険である物理的根拠 でもある。アメリカの軍備増強と朝鮮半島への配置計画を考えれば、ブッシュ政権が「軍事的」観点 から北朝鮮に対して自信感を持つ時期は2003年夏以降になるだろう。

  勿論、将来朝鮮半島の情勢に関して、上のような 「不安」 要因だけではない。
何より、核波紋にもかかわらず南北が合意事項を誠実に履行しており、北朝鮮の改革開放努力も加 速化している。2002年大統領選で、韓国の有権者は「包容政策の継承・発展及びアメリカの一方的 軍事行動の反対」を掲げる盧武鉉民主党候補を選択することは、韓国が続けて朝米間の緊張を緩和・ 調整する政治的環境を創るのにも大きな意味がある。また、中国、ロシア、日本など周辺国家も 北朝鮮の核問題の「平和的解決」大原則に同感しており、将来にもこの原則を固守する可能性が高く、 朝米関係の破局への暴走をある程度、制御することが期待される。ブッシュ政権のイラク戦争計 画に強行によって、アメリカを含む全世界にわたる反戦平和運動の復活も朝鮮半島の戦争予防に大 きな役割を果たすだろう。特に、米軍の装甲車による女子中学生死亡事件で燃え上がる韓国の反米 感情もブッシュ政権の一方的な北朝鮮に対する強硬策にブレーキをかける重要な役割を果たすだろ う。したがって、将来、朝鮮半島情勢は、危機の悪化要因と緩和及び牽制要因が並存して、きわめ て複雑に展開する可能性が高い。これは、即ち危機の悪化を阻止する要素を最大限に活かしながら、 危機をチャンスに転化しなければならない、われわれの課題とも直結する問題といえる。危機予 防策については別紙に譲ることにする。

 4、韓国、再び「いじめ」をうけることがあっては

  認定するには困難かもしれないが、北朝鮮の核問題は基本的には朝米間の事案である。 だからといって、韓国は拱手傍観するにはいかない。むしろわれわれが堂々たる当事者として問題 解決の主導権を握るためには、ジュネーブ合意の締結過程に対する反省的な思考から必要するので ある。
  94年危機当時、金泳三政権は、「核を持つ者とは握手し得ない」という感情的な接近を固執して、 アメリカと北朝鮮の両方から背をそむけられたことがあった。
  こうした背景には、当時、言論の無責任的な偏頗・歪曲の報道もあったことに留意すべきである。 こうしたわが政府の未熟さは、交渉はアメリカに、費用はわれわれが負担するという惨憺な結果に つながった。

  94年危機のもう一つの教訓は、わが政府と言論がアメリカの強硬派の歩調に合わせるならば、 朝鮮半島の運命がわれわれの手を離れるということである。当時、金泳三政権は、米国内の強硬派の 反発にもかかわらず、北朝鮮との交渉を模索したクリントン政権に反対したが、いざ戦争の危機が 高まると北朝鮮爆撃を推進するとクリントン政権を押し止めるあきれた騒ぎをおこしたこともあった。 しかし、危機が高まり朝鮮半島情勢が統制不可能な状態に陥ると、韓国大統領の反対もアメリカの 政策決定に変数にならないことは、94年危機が証明している。金泳三当時大統領の強い反発にもか かわらず、アメリカは間断なく北朝鮮への攻撃計画を推進したからである。こうした8年前の教訓 を忘れて、「北朝鮮屈服」 と 「太陽政策批判」 次元から、今度の核波紋を接近すれば、94年に類似 する、いやはるかに深刻な戦争危機を招き得ることを忘れるわけにはいかない。 保守的な政治圏と言論が強調しなくとも、北朝鮮が核兵器開発に成功すれば、 アメリカや日本より韓国の安保が脅威にさらされることは周知のことである。 また、韓国は46億ドルに上る軽水炉事業費の70%を負担している。 さらに、まかり間違えば朝鮮半島の平和はさておき、戦争の危機へとまっしぐらに進む可能性さえある。 緻密で賢明な解決策が至急である。 しかし、保守的政治圏と言論の注文は、問題解決に全くたすけにならないことを指摘しないにはいかない。

  これは94年危機の教訓でもある。

  保守的言論と政治圏、そしてブッシュ政権は、経済的に事実上、破産状態にある北朝鮮に対す る支援を中断し、外交的に孤立させ、圧迫すれば北朝鮮が屈服すると主張している。 これがブッシュ政権のいう 「平和的解決」 本質である。こうした主張の延長線上から、 わが政府も北朝鮮に対する経済協力を中断し、圧迫外交に同調すべきだと主張している。 このようにしてこそ効果があるという。しかし、過去の経験が証明したように、その「効果」とは 北朝鮮の屈服ではなく、反発と危機の増幅である。そして、その代価は、北朝鮮の残酷な人道主義 的な危機の深化で、韓国の政治、経済的不安と深刻な戦争の危機である。 満足するわけにはいかないが、北朝鮮の核問題をはじめとする難解な問題を解決していく 「検証さ れた」 方法は、対話と交渉であり、交渉当事者間の誠実な約束の履行である。

  こうした点から、金大中政府と盧武鉉次期政府が南北関係の維持・発展を追求しながら、 「対話と交渉を通じた平和的解決原則」 を重ねて闡明しているのは、われわれが再び94年の ような愚かさを犯さないだろうという希望を抱かせてくれる。特に2003年初、アメリカが北 朝鮮に対する経済制裁と政治外交的封鎖を強化して、核開発放棄を誘導するいわば 「(北朝鮮 用に) 仕立てた封鎖」 の推進計画が流れると、韓国の現職大統領と次期大統領は、断固と反対 の意思を表明し、北朝鮮の核問題解決の主導的役割と朝米間の仲裁者の役割を自任したことは 大きな意味がある。韓国の政策的連続性の持続を内外に誇示しただけでなく、実際にアメリカ の 「あわせ型封鎖」 を留保させる外交的成果も挙げたからである。

  北朝鮮が秘密裏に核開発を図っていれば、これは北朝鮮が韓国と国際社会に対する約束の違反 であり、朝鮮半島平和を脅かす重大な事案である。しかし、北朝鮮がすでに核兵器を保有してい るというラムズフェルド米国防長官などの発言を裏付ける根拠はない。大多数の専門家たちは、 高濃縮ウラニウムを利用した北朝鮮の核開発を武器製造段階ではなく、「研究開発」 段階と見て いる。実際に、核保有には3年以上かかるからである。また、プルトニウムを利用して核開発に成 功するためには、起爆装置と核実験が必要とするが、北朝鮮が起爆装置を確保したとか、核実験を したという証拠はいまだにない。これは、対話と交渉を通じて問題を解決する最も基本的な環境で もある。それに、北朝鮮はブッシュ政権が北朝鮮に対する敵対政策を放棄すれば、核問題をはじめ とする安保的憂慮事案を解決する用意があると表明してきた。

  93〜4年朝米間の核危機当時の米側代表団の一員であったケネス・キニョネス前米国務省北朝鮮 担当の話はわれわれの現実を深く反省させた。彼はハンギョレ新聞 (2002年10月21日) とのインタビ ューで、韓国の主導的な役割の重大さを強調した。彼は特に、韓国が対米依存的な事大主義を捨て て、北朝鮮との和解を誠実に推進することこそが、災厄を防止する道だと忠告した。しかし、保守 言論と一部の政治圏の無責任な強硬な世論つくりは、問題解決の出発点ともいえる貴重な力と知恵 を韓国内部から消尽させる結果を生んでいる。

  勿論、北朝鮮の核開発疑惑は解消されなければならない。しかし、これは 「対話と交渉を通じた 平和的解決」 という大原則の下でだけ解決できる問題である。そして、こうした平和的解決の力は われわれにしかない。われわれが力と知恵をあわせても、この難関の克服は簡単ではない。偏狭な 政治的利害関係に縛られではなく、この難関を克服に導くために政治圏と言論は、「反戦・反核・ 平和」 という普遍的な価値とともに、国益と民族の立場からこの問題に接近しなければならない。 ブッシュ政権の北朝鮮に対する強硬策の最後の手段は戦争であるが、われわれには絶対譲歩できな いマジノ線ではなかろうか。

  もつれた糸かせのように、いまひとつの新しい危機を孕みつつある朝米間の葛藤と対決を解消す るためには、糸かせを解く糸口が必要である。そして、その役割は韓国にあるに違いない。どの一 方に偏るのではなく、正直で、公正な仲裁者としてのわれわれの役割は何時よりも重要なのである。

  認めざるをえない現実は、北朝鮮の核問題の解決が極めて困難である点である。
まず、北朝鮮の核開発が実際の核兵器製造段階か、研究開発段階か、それとも計画段階か、またその 目的が 「電力生産」 なのか、「核兵器」 開発かさえ明確でないため、問題接近さえ容易でない現実である。 また、問題解決の鍵を握っている北朝鮮とアメリカは、問題解決の糸口さえ見出していない。 北朝鮮の場合、アメリカの敵対政策及び先制攻撃脅威が継続されている限り、「抑制力」 の次元か ら核開発をまず放棄できないという立場を崩さないまま、アメリカとの一括妥協を望んでいる。
これに比べて、アメリカは 「検証可能の方法で北朝鮮の核開発が終息されない限り、北朝鮮との交 渉はあり得ない」 という立場を固守してきている。即ち、北朝鮮はアメリカとの交渉を懇切に望ん でいるが、アメリカはイラク攻撃に蹉跌をもたらすのではないかという憂慮から、一種の 「様子 見」(wait and see) 式戦略を固守している。

  前で詳細に述べたとおり、将来、北朝鮮の核波紋の展開過程で中心的な変数は、ジュネーブ合意 の破棄の問題である。これによって、現在われわれの選択は二つに絞られている。ジュネーブ合意 の破棄を現実と認定するのと、北朝鮮とアメリカを説得してジュネーブ合意を蘇生させるのとであ る。しかし、今までと同じく朝米間の対話が断ち切られ、緊張が憂慮される状況において、ジュネ ーブ合意が破棄された場合、朝鮮半島情勢は統制不能の状態に陥り得るので、ジュネーブ合意をな んとしても蘇生させるのがわれわれの至急で譲歩し得ない目標にならなければならない。

  だからといって、ジュネーブ合意のなかにある多くの合意内容が誠実に履行されていなく、また 将来的にも履行し難い状況から 「原案」 に執着する必要はない。また、北朝鮮が濃縮ウラニウムを利 用した新たに核開発を図っているという疑惑が提起された状態で、この問題をジュネーブ合意の枠 組で解決するのは容易ではない。したがって、今の段階でわれわれが積極的に推進し得る方策は、 ジュネーブ合意の精神を蘇生させ、不備な部分を修正、補完する「改善された履行方策」を創り、 これで北朝鮮、アメリカ、日本、EUなど関連当事国を説得する事である。特に、韓国のジュネー ブ合意の履行改善案を通じて、北朝鮮の核問題の「包括的」解決方策を提示すれば、ジュネーブ合 意の履行改善を提案したブッシュ政権の面子を立てながら、危機を収拾する道を開けるだろうとい う点に注目せねばならない。

  ブッシュ政権は、2001年6月、既に北朝鮮との対話議題にジュネーブ合意の改善された履行を 最優先課題と提示したことがあった。ブッシュ政権のいう改善された履行とは、北朝鮮の早期核 査察の受け入れ貫徹が核心で、軽水炉を火力発電所に代替する方策も考慮されたことがあった。 一時、ブッシュ政権は議会一部で主張された軽水炉の火力発電所への代替方案を、韓国、日本な ど KEDO国家の反対でうやむやになってしまったが、北朝鮮が秘密裏に核開発を試みているとい う疑惑が提起されると、再び浮上する可能性があると思われる。こうしたブッシュ政権の改善案に 対して、北朝鮮は絶対受け入れられない立場を表明しつつ、アメリカは軽水炉事業の遅延による電 力損失補償、消極的な安全保障に対する確約、政治的、経済的関係改善の追求・履行など誠実に行 なわなければならないと主張してきた。

  したがって、ブッシュ政権が発足後、朝米間に先鋭な問題になってきた寧辺の核施設に対する 北朝鮮の核査察の受け入れ、軽水炉事業遅延による北朝鮮の電力損失問題の解決、アメリカの北 朝鮮に対する消極的安全保障など、政治的、経済的関係正常化などとともに、最近、最大の懸案 と浮上している北朝鮮の秘密核開発疑惑の解決のためには、既存のジュネーブ合意を一部修正、 補完するしかない状況にある。それに、朝米間の対話再開の兆しすら、まったく見えない状況から、 韓国が周辺国家とともに積極的に仲裁する必要がある。ジュネーブ合意締結の当事者が北朝鮮とア メリカではあるが、韓国がこの合意による軽水炉事業費の70%を負担しており、根本的にジュネーブ 合意が破棄されれば、朝鮮半島情勢は統制不能に悪化する可能性が高いため、韓国は「主人意識」を 以ってこの問題に臨まなければならない。われわれ側から講究できるジュネーブ合意改正の方向を次ぎのように整理する。

  1、北朝鮮の秘密核開発問題が全面的に提起されただけに、ジュネーブ合意に「ウラニウム濃縮 施設の保有をはじめとするいかなる形の核開発の禁止」条項を追加する必要がある。この条項が挿 入されればアメリカや IAEAは、北朝鮮の濃縮ウラニウム施設疑惑に対する協議が可能になり、 問題解決の糸口を見出すことができる。特に、北朝鮮はアメリカとの交渉が開始されば、高濃縮ウ ラニウム施設に対する査察を受け入れる用意があると表明したことがあり、ジュネーブ合意にこの 内容を追加するのは難しくない。同時に、北朝鮮が核開発放棄の「担保」と求めている不可侵条約の 締結問題に関して、ブッシュ大統領の政治的修辞よりは高い次元での、ただし現実的に不可能な条 約締結よりは低い水準の不可侵条項を盛りこみ得るだろう。即ち、「北朝鮮が高濃縮ウラニウム施 設に対する IAEAの査察団を受け入れる時点に、アメリカの大統領は北朝鮮政府に不可侵保障書 簡を送付」 という文句を入れる方策を講究することができるであろう。

  2、寧辺核施設に対する北朝鮮の査察受け入れの時期を明確にすることである。前に言及したと おり、ジュネーブ合意文には北朝鮮の核査察の受け入れ時点が模糊にしているために、摩擦の素地 を作っている。それに、査察期間に対するIAEAと北朝鮮との大きな隔たり (IAEAは3年以 上、北朝鮮は3〜4ヶ月を主張) は、軽水炉事業の円滑な履行を阻む要因の一つになっている。 また、ジュネーブ合意によれば、北朝鮮が核査察を受ける期間には軽水炉時事業が事実上中断され ることになっている。アメリカ及び IAEAの主張とおりに3年ほどかかると、北朝鮮は再び軽水 炉事業遅延による莫大な電力損失を提起し、強く反発するだろう。北朝鮮が主張する3ヶ月ほどで 核査察をまとめるのも期待し難い。したがって、この部分に関する内容の修正は避けられない。そ の方向は北朝鮮の核査察の受け入れを通じた核開発疑惑の完全な解消と、軽水炉事業の遅延による 電力損失を 「補償」 ではない 「支援」 する方式を交換し合うことは可能であろう。しかしアメリカ が、軽水炉事業が遅延させたのは北朝鮮の責任だから、電力損失を補償する義務がないとしている ため、この方策も容易くない。

  しかし、韓国政府が発想の転換を通じて問題解決に積極的であれば、突破口を見出し得る。韓国 の場合、過去北朝鮮に約束したが、アメリカの反対で霧散された電力支援を軽水炉事業遅延による 電力損失補償の「一つの方策」として講究し得る。アメリカが韓国の北朝鮮に対する電力支援を反 対する理由は、電力支援が北朝鮮の核凍結と韓、米、日の代替電力支援を骨子としたジュネーブ合 意の履行に蹉跌をもたらすからである。したがって、北朝鮮に対する電力支援をジュネーブ合意 「外」 の事業ではなく、既に蹉跌が生じているジュネーブ合意を蘇生するための一つの「代案」とし て考えれば、アメリカ政府を説得できる名分をもち得る。深刻な電力難にさらされている北朝鮮に とっては、勿論、実利を保障する方策でもある。

  したがって、この部分に関して、ジュネーブ合意の具体的な修正方向は、@アメリカが軽水炉事 業と重油提供を誠実に履行し A韓国主導の北朝鮮への電力支援方策を早急に創り B北朝鮮は韓国主 導の電力支援方策が樹立される即時、IAEAの核査察を受け入れるなどである。これは、軽水炉 事業の完工時点を画期的に繰り上げ、南北の電力協力を一段と高め、北朝鮮の核開発問題を早期に 解決するという、関連諸国にも利益になる方向と思われる。

  最後に、アメリカが履行すべきなのは、北朝鮮に対する核兵器使用及び使用威嚇を行わないとい う、いわば消極的安全保障(NSA)を公式的に確約することである。 これは核拡散禁止条約 (NPT) 延長を強く求めてきたアメリカの当然の義務事項であり、 北朝鮮を NPT に完全に復帰させるに必要な前提条件でもある。 しかし、前に言及したように、アメリカが北朝鮮に消極的安全保障の確約は容易ではない。 したがって、折衝方策は 「北朝鮮とアメリカの交渉が行われる間、 ジュネーブ合意で明示した消極的安全保障は有効で、生物化学兵器など他の安保憂慮を解消するために、 北朝鮮とアメリカは持続的に交渉を行う」 という方向で立てることができる。

  破格的ではあるが、われわれが必ず追求しなければならない核戦争の恐怖からの解放にまで進展 させるためには、周辺大国の消極的安全保障を 「交差」 保障する方策も求められる。即ち、アメリ カは北朝鮮に、中国とロシアは韓国にそれぞれ消極的安全保障を確約し、明文化する方策も推進で きる。これを通じて、非核国家としての南北が核の恐怖から解放される制度的装置になるだけでな く、北東アジア非核地帯に向けう意味ある大きな進展になるだろう。そのために、北朝鮮の核問題 が解決局面に近づけば、南北、アメリカ、日本、中国、ロシアが参与する 「北東アジア非核地帯推 進機構」 創設の提案も積極的推進する必要がある。

  問題は、改善方策の具体的内容ではなく、ジュネーブ合意を蘇生させる政治的環境を創るにある。 前にも言及したように、朝米間の視角の差異がもともと大きく、アメリカが対外政策の優先順位 からイラク戦争計画を固守しているため、いくらいい方策があっても容易に突破口ができない現実 にある。北朝鮮の核問題の平和的解決のための政治的環境の造成の前提にしなければならないのは、 南北和解協力基調の誠実な維持と発展である。これは、危機状況の到来時、危機拡大の緩衝的役 割を果たせるので、放棄しではならない原則でもある。

  同時にわれわれは、北朝鮮とアメリカに問題解決の糸口を見出すための政治的環境の造成への努 力を求めなければならない。まず、北朝鮮に最小限国際社会で 「禁止線」(red line) といわれている 使用後燃料棒の再処理しないように強く要請しなければならないだろう。同時に、アメリカにはジ ュネーブ合意の維持という基本原則を再確認し、緊張造成行為となる対北朝鮮制裁推進や軽水炉事 業中断などを自制するよう求めなければならない。何よりもアメリカのいう「平和的解決」原則が 中長期的にも有効であることの表明を説得し、平和的解決の基本原則は「交渉」にあること周知さ せるよう努力しなければならない。

  もう一つ重要なのは、北朝鮮の核問題の解決過程が朝米間の敵対関係を解消し、朝鮮半島冷戦 構造の解体及び北東アジアに新しい安保秩序の創出をも志向する 「マスタープラン」 と接するよ う緻密な戦略をたてなければならないということだ。マスタープランの過程は次のように構想さ れる。

  北朝鮮の核放棄宣言時「文書形態の体制安全保障の提供意思」をアメリカに確認→北朝鮮の NPT 脱退の撤回及び包括的核放棄宣言→アメリカの北朝鮮に対する体制安全保障の文書提供→寧辺核 施設に対する IAEA査察団の復帰および封印・監視カメラ再設置→朝米交渉開始及び高濃縮ウラ ニウム疑惑に対する北朝鮮のIAEAとの協議の開始、朝日国交樹立交渉の再開→KEDOの重油 提供再開、および韓、米、日の対北朝鮮人道支援拡大→KEDO理事国(韓、米、日、EU)と北 朝鮮とのジュネーブ合意の履行改善案交渉、中国とロシアのオブザーバー資格で参加→北朝鮮の核 問題が解決局面に近づく場合、南北、米、日、中、露が参与する「東北アジア非核地帯化機構」創 設を提案→核問題外にミサイルなど朝米間の他の懸案に対して交渉→停戦体制を平和体制への転換 を骨子とする韓−米−朝交渉の本格的開始。

  勿論、上のような一連の過程は必ずしも順次なされる必要はない。しかし今度の北朝鮮の核問題 のように朝鮮半島で危機状況が再発しないように朝米間の敵対関係の終息及び朝鮮半島の冷戦構造 の解体という大きな下絵を描きつつ、北朝鮮の核問題解決案を創るべきである。

  もう一つ注意すべき部分は、仲裁が失敗すれば事態はむしろ悪化される可能性がある。したがっ て、時間上の緊迫感からでも、韓国で用意した仲裁案を朝米両側が 「必ず」 受け入れ得る仲裁案自 体を堅実に作ることが重要である。

 5、最後の陥穽

  一般的に 「北朝鮮の核危機」 といわれる2003年朝鮮半島は、三つの次元から理解すべきである。 即ち北朝鮮の核危機は、執権と同時に内在してきたブッシュ政権の朝鮮半島戦争威嚇、そして北 朝鮮の人道主義的危機とともに考える必要がある。そして、この三つは互いに分離されたのではな く、相互間に相乗作用を引き起こしつつ、破局を招く可能性があるので、悪循環のリングを絶たな ければならないという絶体絶命の課題にもつながる。

  何よりも、2003年危機の核心には、ブッシュ政権から提起された戦争危機が潜んでいる。これ は、2002年10月に発生した北朝鮮の核波紋以降提起されてきただけではないことを認識するのが重 要である。ブッシュ政権の核心的な外交安保首脳は、従来から 「北朝鮮」 などいわば 「ならず者国 家」 に対して先制攻撃戦略とこれを貫く軍事力の増強を推進してきたからである。92年米国防省の タカ派たちが作成したが、流出して波紋を呼んだ 「国防政策指針」(Defense Policy Guidance) と米 強硬派の核心的なシンクタンクである 「新しいアメリカのためのプロジェクト」(Project for the New American Century) が2000年に作成した 「アメリカ国防力の再建」(Rebuild America’s Defense) などで は、既に北朝鮮をイラク、イランなどを核心的な敵対国家と描きつつ、先制攻撃を公式に採択する ことと軍事覇権主義を追求すべきだという内容が盛り込まれた。

  このような報告書の作成に参与した中心的人物には、ディク・チェイニ、ドナルド・ラムズフェルド、 ポール・ウォルフォウィッツ、ルイス・リービーなど現在ブッシュ政権の対外政策を主導す る人物が大部分含まれていた。2000年1月号フォーリンアフェーアー誌を通じて 「アメリカは北朝 鮮やイラクとは交渉を追及するよりは、これらの脅威に対処する軍事力を建てるのが望ましい」 と 主張したコンドリーザ・ライス・ホワイトハウス安保補佐官と、99年の報告書を通じて北朝鮮の ミサイル輸出船舶を公海での拿捕を「既に」勧告したリチャード・アーミテージ国務省副長官も忘れ るにはいかない。したがって、こうした世界観と北朝鮮観を持つ人物たちが政権を握った時点で、 朝鮮半島の危機は既に内在していたといっても過言ではない。

  したがって、2002年10月から突出した北朝鮮の核波紋は、2003年危機説の決定的要因とするより は、むしろ「加速化した要因」と見るのが妥当だろう。ブッシュの「悪の枢軸」発言も、先制攻撃対 象に北朝鮮を明示したのも、北朝鮮の核波紋が発生する前のものだということを念頭に置く必要が ある。むしろ、こうしたブッシュ政権の一貫した北朝鮮に対する強硬策が 「朝鮮半島危機」 の根本 的要因となっている。ブッシュ政権から提起された「根本的脅威」については、別紙に譲ることにする。

  次は、北朝鮮の核武装が現実化するときの危機である。アメリカとの交渉がついに霧散し、北 朝鮮が核武装に走れば、その波長は想像を超えることになる。朝鮮半島での戦争の危険性が根本 的に除去されない状態から、北朝鮮の核武装は、韓国国民に「核戦争の恐怖」与えるほかない。 これは同時に、アメリカの北朝鮮に対する核戦略の強化を招き、朝鮮半島全体が絶えずに「核恐怖 」にさらされる要因として作用するだろう。

  問題はここで終わらない。北朝鮮が実際に核兵器を保有すれば、北東アジアはもちろんのこと、 全世界に及ぼす影響はきわめて大きいからだ。北朝鮮の核保有は直ちに、政治的決断さえ下せ ば、数年内に数百基の核兵器を作る能力のある日本の核武装論に拍車をかける結果を生むだろう。 北朝鮮に続いて日本も核武装を図れば、韓国の核保有論も強く提起されるに違いない。これはまた、 その間、急激な核軍備増強を自制してきた中国の核増強につながり、核ドミノ現象がインド、パ キスタン、中東までに拡大される危険性を内包している。また、北朝鮮が核開発に成功すれば、ミ サイルに続いて 「外貨稼ぎ」 手段として、核技術の輸出の可能性も排除できない。北朝鮮の核保有 は、このように北東アジア地域の核軍備競争はもちろん、核兵器不拡散体系 (NPT) の崩壊につ ながる危険性を内包しているのである。

  最も根本的には、「核兵器を持つ北朝鮮」 との統一は事実上不可能である点だ。朝鮮半島統一に 対する周辺国家の利害関係が激しく対立しつつも、互いに譲歩のできない利害関係となっているの は、統一以前はもちろん、統一以降の 「朝鮮半島でも非核化」 を実現することである。周辺国家の 協力と支持まではなくとも、強力な反対がないことが、統一は可能な時に、「朝鮮半島の非核化」 は統一の重要な前提条件になるのである。こうした点から、政府はもちろん、市民社会の徹底した 「反核」 の立場に立つことがきわめて重要である。われわれが徹底した反核の立場に立つとき、ア メリカの北朝鮮に対する強硬策を反対する名分を明らかにさせ、国際社会に強力な道徳的説得力を 持つからである。

  最後に、再び孤立し、支援が減少して北朝鮮住民が直面している人道主義的大惨事の危機である。 上の二つをいまだに不確実な危機とすれば、特段な対策が準備されない限り、 北朝鮮の人道主義的危機が避けられない現実となる可能性が極めて高い。 そのうえ、現実化する可能性が高い危機にもかかわらず、われわれ市民社会をはじめ、 国際社会が最も無関心な領域であるため、状況の深刻さはなおさら大きいい。

  世界食糧機構 (WFP) など、連合国機構は北朝鮮に追加的な食糧支援がなされなければ、 4〜5百万人が餓死の危機にさらされる危険性があると警告してきた。 特に、北朝鮮のこうした食糧難は、2002年の食糧生産量が過去7年の間最も多かったにもかかわらず、 アメリカ、日本など最大食糧支援国家が、核、拉致問題など政治的な理由で食糧支援を中断したり、 大幅減少したりしたため、緩和されていない。尤も、アメリカが重油提供の中断に続いて、 北朝鮮が核開発を放棄しなければ、経済崩壊に誘導する、いわば 「仕立てた封鎖」 を推進すれば、 北朝鮮の人道主義的危機は、回復不可能な水準まで悪化するに違いない。 代表的な大量破壊兵器である核兵器開発の放棄を誘導する名分で、 「大量」 餓死者と脱北者を生む封鎖と制裁を推進しているブッシュ政権の対外政策の没道徳性に憤りを禁じえない。

  不可避に見える北朝鮮の人道主義的な大惨事は、 「人類に大量破壊兵器はいったい何なのか」 という根本的な疑問を問い投じさせる。 一例に、大量破壊兵器の開発を予防する名目で91年の湾岸戦争以降、イラクに強いられている経済制裁により、 2〜3百万に上るイラク住民が命を落とした。 この数値は、人類史上使用されたすべての大量破壊兵器による犠牲者の合計より多い数値である。 そして、こうしたイラクに対する「静かでありながら残酷な戦争」は現在も続けられている。 北朝鮮も90年代中後半に続いて2003年に再び大飢饉に直面すると予想される。 北朝鮮が2百万ほど餓死者を出したと知られる90年代中後半の大飢饉に続いて、 2003年にも再び「銃声なき戦争」が避けられないとすれば、連合国の関係者たちが警告してきたように、 「北朝鮮の一世代は静かに消えるだろう」。

  上に言及した三つの朝鮮半島の危機−北朝鮮の核武装、アメリカの戦争の可能性、北朝鮮の人道主義的危機−の中で、 どの一つでも現実化すれば、われわれは取り返しのつかない傷痕を負うことになる。 しかし、この三つに危機は、互いに密接に関連するものでどの一つだけの解決は不可能である。 逆に、問題を解けば三つの危機を同時に克服できる環境も創られる。われわれが注目すべき部分がまさにここにある。 仮に、ブッシュ政権が今までの態度を転換して、「妥協」のために北朝鮮との交渉に出ると仮定してみよう。 北朝鮮は、今この瞬間までも、アメリカとの交渉を通じて体制安全保障を約束されれば、 核開発を放棄する立場を堅持してきたので、米側の態度の変化が問題を解く最も重要な糸口と言える。

  交渉を通じて、北朝鮮の核放棄とアメリカの北朝鮮に対する体制安全保障の約束を骨子とする大妥協がなされれば、 「核恐怖」 を含んだ朝鮮半島の戦争危機は確実に減るだろう。 これは同時に、弾道ミサイル、生物化学兵器、在来式軍事力などアメリカのいう他の安保事案とミサイル放棄による現物補償、 テロ支援国及び経済制裁解除、停戦体制の平和体制への転換など北朝鮮側の要求事案を包括的に解決する道を開くだろう。 また、南北、朝日関係正常化の障害物が除去され、朝鮮半島の冷戦構造の包括的な解体と北朝鮮経済再生の道を開くだろう。 勿論、この過程で中断、縮小された対北朝鮮食糧及びエネルギー支援が再開することで、 北朝鮮の人道主義的惨事を緩和する環境も自然に創られるだろう。

  しかし、われわれが直面している現実は、上で述べた三つの危機を同時に克服する方向よりは、 最後のジレンマを内包した「陥穽」に陥る結果につながる可能性がむしろ高い。 これは、ブッシュ政権の北朝鮮政策をめぐるアメリカ国内の論議を通じてでも類推することができる。 実際に、2003年にはいってブッシュ政権の無原則な北朝鮮政策が、 北朝鮮の核開発を放置しているという批判が国際社会は勿論、 米国内でも激しく広がってきた。 特に、国際社会と大多数アメリカ言論は、 アメリカの北朝鮮に対する強硬策と北朝鮮の核開発で造成されている 2002年末〜2003年初の情勢を 「深刻な危機」 と規定している一方、 ブッシュ政権は「危機とは見ていない」という立場を重ねて表明する。 ブッシュ政権がイラク戦争計画に没頭するあまり、もっと大きな危機に安逸に対処しているとの批判が後を絶たない。

  ニューヨークタイムズは、2003年1月5日に 「大部分専門家たちは 北朝鮮の核問題を過去10年間北東アジアの最も大きな安保脅威と受け止めている」 とし、 ブッシュ政権の安逸な認識を激しく批判した。また、米言論は、「イラクは連合国の査察団を受け入れ、 連合国に協力しているが、北朝鮮は査察団を追放し、核開加速化している」 と指摘しつつ、 イラクには武力行使を、北朝鮮には平和的解決を追求するブッシュ政権の態度を全く理解できないという論調を見せている。 だかといって、言論が北朝鮮に武力行使すべきと主張したわけではない。 大部分の言論と専門家たちは、「交渉」 こそが、唯一解決策になるという立場を見せている。 北朝鮮の核問題が発生後、「北朝鮮はイラクとは異なる」と困窮な弁明を繰り広げているブッシュ政権の 国民に対する宣伝戦も効力を発揮しないている。そうした状況から、ブッシュ政権がイラク戦争を強行すれば、 これを「石油利権及び覇権主義を強化するための戦争」と見ているイスラム圏の反米感情は、極に達するとの警告も出ている。 即ち、アメリカのイラク攻撃は、国際社会が最も憂慮する「文明間の衝突」へと飛び火する可能性がある。 こうした憂慮を反映したように、北朝鮮の核問題が悪化するなか、イラク戦争計画を再考する米国内の要求も強くなっている。

  国際社会は、よく、北朝鮮政権を 「予測不可能で、非理性的な国家」 という修飾語をよく使っている。 しかし、今日の核問題をめぐる朝米間の対決構造を見れば、「予測不可能な」 側は、むしろブッシュ政権と言える。 北朝鮮は、2002年10月に生じた核波紋以降、「アメリカが不可侵条約締結すれば核問題は自然に解決される」 と、 核問題と体制安全保障問題を骨子とする 「交渉」 を求めているが、 ブッシュ政権の強硬穏健の間を揺れ動く発言で混乱を加重している。

  伝統的に 「封鎖」 と 「抑制」 に依存してきたアメリカの安保戦略を 「先制攻撃」 に転換し、公式化したブッシュ政権は、 北朝鮮を「最も危険な大量破壊兵器保有国家」とし、「悪の枢軸」 と先制攻撃対象と指定したが、 実際に北朝鮮の核開発問題が生じた後には 「外交を通じて平和的解決」 を表明している。 しかし、アメリカの大多数専門家たちが指摘するように、外交の基本である 「交渉」 を排除している点で、 平和的解決の基本的手段を無視している。 こうした無原則で無責任な北朝鮮政策が北朝鮮の核開発を放置しているという非難の声もあがっている。

  ブッシュ政権は、これに対して 「北朝鮮を先制攻撃するのはきわめて危険で、フセイン政権がもっと危険だ」 から、 北朝鮮とイラクに同様な方式は適用できないと主張してきた。ブッシュ政権は、北朝鮮がイラクと異なる理由として、 朝鮮戦争以降、周辺国家を侵略したことや大量破壊兵器を使用したことがなく、 イラクと異なって地域覇権を追求しないなどを挙げている。 また、北朝鮮は、イラクより経済的にきわめて脆弱であるため、制裁と圧迫を通じて屈服させ得ると見ている。 北朝鮮とイラクを非難してから数ヶ月しか過ぎないが、いざ北朝鮮の核開発問題が生じた後には、 ブッシュ政権が北朝鮮を擁護する、あきれた事態が繰り広げられている。

  このように、ブッシュ政権が自分の便宜によって政治的修辞と政策を変えるのが極めて危険な理由は、 政策決定とその結果に対する不確実性を高めているからである。 即ち、ブッシュ政権が真に追求する目標と意図がますます不透明になっているからである。 北朝鮮をイラクとは異なると見て「将来も」武力行使を排除するのか、イラク戦争後に 「まってろよ」 ということなのか、 それとも、今まで堅持してきた 「武力行使」 にも 「交渉」 にも応じず、「北朝鮮脅威論」 に頼って、 ミサイル防衛体制(MD)構築など軍備強化の根拠とし続けるのか、まったくその本意を読み取りがたいのである。 こうした混乱像は、根本的にアメリカの強温派の間に、北朝鮮政策の目標に対する分裂が継続しているからであろう。

  北朝鮮政策とその目標及び手段をめぐってブッシュ政権の混乱像は、 北朝鮮の核示威が絶頂に達した2002年末と2003年初の情勢に対する認識からも確認することができる。 一般的にアメリカはもちろん国際社会も、北朝鮮が超えてはならない禁止線として  ▲核兵器不拡散条約 (NPT) 脱退宣言 ▲中長距離ミサイルの発射実験 ▲原子炉の再稼動  ▲使用後燃料棒の再処理などを言及してきた。その中で、使用後燃料棒の再処理は、 5個ほどの核兵器を造る武器級プルトニウム抽出が可能がために注目すべき対象である。 しかし、パウエル国務長官は、2002年12月29日のアメリカの放送に出演し、 「北朝鮮が追加的な核兵器保有をとる場合、政府は何をするか」 という質問に、 「先走って判断するな」 と北朝鮮が核兵器を他の国に輸出すれば、行動に出ると発言したことがある。 パウエル長官は、これを北朝鮮が超えてはならない「禁止線」であると明かした。 まだ断定するには早いかもしれないが、こうしたブッシュ政権の立場は、 「短期的に」 北朝鮮が核兵器を保有するまでは容認しても、輸出は認めない暗示とも解釈可能である。 ブッシュ政権が最近、「北朝鮮が1〜2個の核兵器をすでに保有している」とするのも、こうした脈絡から注目する必要がある。 これに関して、ニューヨークタイムズは、 2002年12月30日の記事で「たとえ、金正日が核兵器を追加的に保有しても、 これは本質的にフセインよりは予測可能で、危険ではないとブッシュ政権は判断した」というシナリオを提示することにした。

  こうしたニューヨークタイムズの報道を裏づけるように、パウエル長官は、 「北朝鮮は住民が餓えており、エネルギーもなく、経済も崩壊しているのに、 2〜3個の核兵器を追加して何をしようとするのかね」 と反問したという。 つまり、北朝鮮はすでに核兵器を1〜2個保有し、これに追加的に数個保有しても、 他の国に輸出しない限り、深刻な事態にはならないこともありうるという態度を見せているのである。

 ここに一つ注目すべきなのは、「北朝鮮がすでに1〜2個の核兵器を保有している」 という主張は、 依然と根拠が別にないのである。北朝鮮の核保有問題について、ブッシュ政権の政治的捜査の変化を見れば、 初期には 「1〜2個の核兵器を造るプルトニウムを保有している」 から、 2002年10月の北朝鮮の核波紋以降には 「1〜2個の核兵器を保有しているかもしれない」 に、 そして、北朝鮮の核凍結の解除宣言した2002年12月末からは 「すでに持っている」 と変化してきた。 これは政治的修辞の次元の発展であるだけで、ブッシュ政権は、こうした主張を裏づける根拠をまったく提示できないでいる。 武器級プルトニウムで核兵器を製造するためには、 核爆発を起こす起爆装置と核爆発が成功的に起きるかを確認する核実験が必要とするが、 北朝鮮が起爆装置を保有するとか、核実験を行ったとかには何の証拠も提示されていないからだ。

  このように、ブッシュ政権が客観的な根拠の提示しないまま、北朝鮮の核保有を規定事実化しているのは、 多分に政治的な名分の貯蓄用といえる。つまり、北朝鮮が実際に核を保有すれば、 これを阻止しなかったブッシュ政権は、米国内から厳しい批判に直面するに違いないが、 北朝鮮が核兵器を以前から持っていたので、責任を逃れる逃げ口を作ったのである。

  問題は、ブッシュ政権のこのような混乱する北朝鮮政策が北朝鮮の核開発と相まって、 将来に、責任を取れないジレンマを作っている点である。アメリカと北朝鮮が共に掘っている陥穽に、 北朝鮮とアメリカは勿論のこと、韓国、日本、中国、ロシアなどの関連国家も陥る可能性が高いからである。 ブッシュ政権の非妥協的な路線は、窮極的に北朝鮮を一方的に核放棄するか、それとも核武装を強行するか、 両者択一を強いる結果を生んでいる。北朝鮮の立場と態度は、アメリカから体制安全保障の約束を受けなければ、 核兵器を保有することもありうるという立場だけに、劇的な突破口が創られない限り、 北朝鮮は実際の核武装に走る可能性が高い。これは、南北、アメリカ、日本、中国、ロシアの全てが望まない結果でもある。 ブッシュ政権の北朝鮮に対する非妥協主義の危険の理由がまさにここにある。

  アメリカの強硬策と北朝鮮の核開発の試図によって造成されている危機状況が、 未来に投じている核心的な質問は次のように整理できる。 「核兵器をもつ北朝鮮との共存を選択するか、それとも戦争をも辞せずこれを阻止すべきか」。 すなわち、今は北朝鮮の核武装も、アメリカの軍事行動も阻止しなければならないが、 将来、両者択一をしなければならない状況が訪れるかもしれない。 こうしたシナリオは、劇的な突破口が創られない限り、単純に「仮定」ではない「現実」になる可能性がある。 勿論、状況がここまで暴走しないようの予防外交と予防運動に総力を尽くさなければならないが、 こうした可能性にも備える必要がある。

  問題解決の劇的な突破口が創られなければ、うえのようなジレンマに直面する時点は、2003年夏頃になるだろう。 北朝鮮が寧辺の核施設を再稼動すれば、5個ほどの核兵器を造るプルトニウムの抽出時期も今年の夏で、 アメリカが計画通りイラク戦争を終結させ、焦点を北朝鮮に合わせる時期も晩春から可能となるからである。 事態解決の鍵を握っているブッシュ政権は、北朝鮮に核廃棄を重ねて求めながら、 これが拒否されれば応分の代価を支払わせるだろうと警告し、 韓国と日本、中国とロシアには核兵器を持つ北朝鮮との共存を選択するか、 それともアメリカ主導の北朝鮮に対する制裁や軍事行動をとるかを求めるだろう。 特に、イラク問題が解決された以降には、軍事力と外交力を北朝鮮問題に集中することができるため、 ブッシュ政権の態度は確然と変わるだろう。

  もう一つ考えてみる問題がある。そもそも 「アメリカは北朝鮮の核武装を絶対容認しない」 という命題を アメリカの北朝鮮政策の一つの常数として扱っている。 これは基本的に正しいといえるが、北朝鮮問題にブッシュ政権の態度と利害関係に対する接近方式から見れば、 「必ずしもそうではない」 というのである。即ち、北朝鮮の核武装が明らかに 「アメリカの国益」 を損なうのは事実ではあるが、 ブッシュ政権には「失」に劣らない 「得」 もあるからである。一般的に 「政府は 『国益』の 観点から動く」 という仮定を立てるが、 より正確な仮定は 「政府は一般の利益と政権及び政権を支える特殊集団の利益を絶えずに調整しながら動く」 になるだろう。 特に、民主的な統制が困難な外交安保領域では、こうした傾向はさらに目立っている。アメリカも例外ではない。 クリントン前政権が対外政策で外交及び国際軍備統制体制を通じた大量破壊兵器「不拡散」を最も重要な国益と解釈したとすれば、 ブッシュ政権は、攻撃的安保戦略と軍事力強化を通じた「大拡散」戦略に中心をおいているのは こうした点から示唆するところが大きい。

  実際にブッシュ政権は、「大量破壊兵器拡散防止」 という観点よりは、「大量破壊兵器の脅威除去」 という観点を持っている。 同じ言葉のようだが、前者は「不拡散」を、後者は 「大拡散」 を意味する。より重要なのは、 こうした接近が、時には 「脅威の放置」 を通じて、時には 「脅威との取引」 を通じて追及される点である。 ブッシュ政権が発足以降、前任政権の北朝鮮とのミサイル交渉の成果を無視し、 交渉を排除しつつ、MD構築の名分として活用したことや、MDに対するロシアと中国の了解を得るため、 ロシアの多弾道核ミサイルプログラム及び中国の核戦略増強を容認していることは、これを如実に見せている事例だと言えよう。

  北朝鮮の核問題に対するブッシュ政権の接近も同じ脈絡から理解することができる。 北朝鮮が実際に核兵器を保有したり、その間近に接近したりすれば、 これはアメリカ主導の不拡散体制には「途方もない挑戦」になるだろうが、 ブッシュ政権が追及する大拡散体制には「途方もないチャンス」として作用する属性を持っている。 同時に外交を通じた北朝鮮の核武装の阻止に失敗したために、 今度は軍事力の使用威嚇及び実際的の使用を通じて核兵器など大量破壊兵器脅威を除去するという 「大拡散戦略」を適用する政治的名分が立つことを意味する。

  ブッシュ政権がうえのような結果を意図しつつ、北朝鮮政策を構想しているかは不確実である。しかし脱冷戦以降、 不拡散体制に最も大きな問題を引き起こす事が確実な北朝鮮の核問題に対する微温的態度は、 これが意図しようがしまいが、うえのような結果を生んだ点から、 ブッシュ政権の北朝鮮政策の最も大きな危険性が潜んでいるのだ。 こうした危険性を警告したように、2002年12月29日のワシントンポストは「陥穽を掘っていて、 自分が陥ることに気づいたら、即時止めるべきだ」という外交家の格言を引用して、 ブッシュ政権は自分までもはまり込む陥穽堀を止め、交渉に応じるべきだと忠告した。 こうした忠告にブッシュ政権が耳を傾けるだろうか、注目してみよう。